以下は『New England Journal of Medicine』で2013年に行われたアンケート結果です。
まずは、ある症例が紹介されます。
その患者さんに対する医療大麻の処方に賛成、反対の両方の立場から、それぞれ代表する医師が意見を述べます。読者は賛成or反対の意見を投稿し、その集計結果が後日、発表されます。
紹介されたのは68歳の乳がん患者で、多発転移を認め抗がん剤治療を受けています。抗がん剤による吐き気、だるさ、食欲低下は著しく、転移による痛みは耐え難いものでした。従来の吐き気止めや麻薬の治療では効果がありませんでした。
このケースで症状緩和のための医療大麻使用を勧めるか否か、というのがテーマです。
賛成派の論客は、メイヨークリニックの精神科教授です。
彼は、現状では大麻が合衆国法には抵触すること、一部の医師によって医療大麻が娯楽目的に処方されていることに苦言を呈しながらも、このように、従来の標準治療で満足な成果が得られないケースでは医療大麻を使用すべきだとの意見を披露します。また、法律が科学的進歩に追いついておらず、現在の臨床試験データの不足はFDAが一切の臨床試験を禁止していることが原因であることを指摘しています。(使用したければ臨床試験で結果を出せと言いながら、試験そのものを禁止するのはフェアではないということです。)
一方の反対派の論客は、フロリダ大学の麻酔科・ペインの先生と、ジョージタウンメディカルスクールの精神科の臨床教授です。
彼らは、「科学的な裏付けのないケアは、親切であって医療ではない」という最後の引用にまとめられるように、現状では人体での研究結果が乏しいことを反対する根拠としています。他にも、大麻草には何千もの研究されていない成分が含まれており、その安全性が疑問視されるという見解です。
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この症例とディベートを元に、アンケートを実施したところ、世界72カ国から1446件の回答が得られました。
その結果は、編集部には驚きでした。回答者の76%が、医療大麻の使用に賛成の立場だったのです。
記事は、こう結ばれています。
「臨床家の大半が、特定の状況下では医療大麻の使用を推奨するようである。より確かな科学的根拠に基づいた議論のために、臨床研究の必要性を求める声が世界中から届いている。」
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公正を期す為に指摘すべきは、このアンケートが任意回答だということです。このようなアンケートに回答する医師はどちらかというと医療大麻賛成派でしょう。そういう意味ではこの76%という数字は、全ての医師の意見を代表したものとは言い難いと思われます。
ただ、印象的なのは、日本国内の報道との温度の違いです。反対派ですら、医療大麻の安全性と薬効を次のように認めているのです。
「この状況で大麻の使用が問題となる可能性は殆どないが…効くかどうかはわからない」
「神経痛に関しては、大麻草の吸入が著効するという質の高い研究結果が小規模ではあるが示されている」
少なくとも医療大麻は議論の対象とする価値があり、もはや主要医学誌は、医療大麻の存在を無視出来ない——世界的には、そういう状況になってきています。
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