医療大麻について語る際には、どうしても多くの専門用語が出てきます。
カンナビス、カンナビノイド、エンドカンナビノイド システム、THC、CBD、CB1、CB2、アントラージュ効果…。似通ったカタカナとアルファベットの羅列に途中で混乱してくると思います。
ここで一度、わかりやすく整理しておきましょう。
1. カンナビス
「カンナビス」とは植物の名前です。日本語では大麻草と呼ばれています。
カンナビスには茎から繊維がとれたり、種子からオイルがとれたり、花穂の部分から独自の薬効を得られたりと、様々な用途があります。喫煙に関する文脈では、カンナビスはマリファナやガンジャとも呼ばれます。(食品や繊維作物として利用される場合、ヘンプと呼ばれることがあります。)
2. カンナビノイド
カンナビスに独特の精神作用があることがわかってから、科学者達はその由来となる物質を単離し化学構造を同定しようと努力を重ねてきました。その結果、カンナビスには他の植物には含まれない独自の化学物質が 100種類以上含まれていることがわかりました [注1]。
注1: こうした「大麻草に独特な化学物質群」は総じてカンナビノイドと呼ばれています。(年々新しいカンナビノイドが分離されているため、大麻草に全部で何種類のカンナビノイドが含まれているのかは、厳密にはまだ誰にもわかりません。)
当初はカンナビスにしか作れないと思われていたカンナビノイドですが、実はその他の生物にも合成する能力があることが判明しました。それが私たち、人類です。人類だけではありません。鳥も、犬も、魚も。ムール貝さえも。昆虫以外の全ての動物の体内で、カンナビノイドに非常に類似した物質が日々、合成と分解を繰り返していることが近年、科学的に発見されています。
この「動物の体内で合成される大麻草に特有な物質群」は、エンドカンナビノイド(内因性カンナビノイド)と呼ばれています。その中で代表的なものがアナンダミドと 2-AG ですが、その他にもさまざまなエンドカンナビノイドがこれまでに発見されています。
また、その他に試験管内で作られたカンナビノイドが存在します。これはカンナビスの有効成分を薬剤として利用しようという試みから生まれ、実際に合成 THC であるドロナビノールなどは、吐き気や食欲不振の治療薬としてアメリカでは販売されています。またカンナビノイド受容体をブロックするリモナバンという合成カンナビノイドがダイエット薬として 2006年に欧州で販売開始となりましたが、副作用として自殺が多く認められ、わずか 2年で市場から回収されました。
合成カンナビノイドは化学式上の側鎖を少しだけ変化させることで、全く別の作用を持つ物質になるためその数は無数にあり、そのほとんどは安全性や有効性の充分な検証が行われていません。合成カンナビノイドを乾燥させた植物片に吹き付けたものがいわゆる脱法ハーブであり、ときに重篤な健康被害を引き起こすことがあります。
このようにカンナビノイドは、その由来から
① フィトカンナビノイド(大麻草由来のカンナビノイド [注2])
② エンドカンナビノイド(動物体内で作られるカンナビノイド)
③ 合成カンナビノイド(実験室で化学合成されるカンナビノイド)
の 3種類に大きく分類されています。
これはたとえるなら、AKBグループのアイドルが地域毎に、AKB、NMB、SKEなどに分類されるのと同じと言えるかもしれません。
注2: 厳密には、ある種の植物(echinacea purpuraなど)は大麻草と同じくカンナビノイドを合成する事が知られています。
3. THC(テトラヒドロカンナビノール)
カンナビノイドと AKB グループのたとえを続けるなら、「不動のセンター」前田敦子とでもいうべき物質が THC です。
先ほど、カンナビスには100種類以上のカンナビノイドが含まれると言いましたが、一般的な株では、その90%以上を THC が占めています。その為、THC に関する研究は、他のカンナビノイドと比べて圧倒的に進んでいます。
4. CBD(カンナビジオール)
THC が前田敦子なら、CBD は大島優子です。つまり、CBD は THC の次に含有量が多いカンナビノイドで、THC の次に研究が進んでいます。
CBD には THC のような強力な精神作用はありません。どちらかというと THC の精神作用を和らげるように機能します。つまり CBD を摂取しても、いわゆるハイの状態になることはありません。それでいて CBD にも、てんかん発作を予防したり、腫瘍細胞をアポトーシス(細胞死)に誘導したりという様々な薬効がある事がわかっています。
THC を含まず、CBD だけを含有する製剤は CBD オイルと呼ばれています。茎から作られた CBD オイルに関しては大麻取締法の規制対象外であり、日本国内でもインターネットを中心に流通しています。
5. CB1受容体 / CB2受容体
カンナビノイドが鍵だとすれば、鍵穴にあたるのが受容体(レセプター)です。人間の体内ではあらゆる組織にカンナビノイドが作用する鍵穴(受容体)が発現しています。カンナビノイドの受容体にも多くの種類がありますが、その中で特に重要なのが CB1 受容体と CB2 受容体です。
CB1 受容体は脳や神経線維の接続部(シナプス終末)などの神経系を中心に発現しています。
CB2受容体は白血球や肝臓、脾臓などの免疫に関わる細胞を中心に発現しています。
カンナビノイドの作用は、レセプターと結合することで初めて起動します。カンナビノイド=アイドルのたとえに戻るなら、受容体は「オタク」です。アイドルがお金を産むのは、オタク(受容体)に刺激を与え、彼らが消費行動を取るからです。ファンあってのアイドルであり、受容体あってのカンナビノイド作用なのです。
6. エンドカンナビノイド システム
生物の体内で作られるエンドカンナビノイドと、その受容体(CB1、CB2など)が織り成す一連のシステムは「エンドカンナビノイド システム」と呼ばれます。エンドカンナビノイド システムは、食べる、眠る、免疫力を保つなどの人間の日常生活の維持に極めて重要な役割を果たしています。
不眠、過食や拒食、うつ症状などが出現するとき、このエンドカンナビノイド システムに不具合が生じている可能性があります。エンドカンナビノイド システムの生まれつきの欠陥が原因と考えられる病気には、偏頭痛や線維筋痛症、潰瘍性大腸炎 / クローン病などがあり、他にも多くの疾患名が挙がります。
それほどに重要なエンドカンナビノイド システムはしかし、現代医学教育においては完全に無視されています。
7. アントラージュ効果
近年、当初考えられていた「大麻の作用=THCの作用」という単純な仮説では色々な説明がつかない事が、徐々にわかってきました。
というのは、化学合成した THC(ドロナビノール)を内服しても、大麻を使用した時のような精神作用や治療効果が得られないからです。THC 単独のカプセルを内服すると、精神作用としてはうつなどの副作用が多く出現し、結果として患者さんは病院で処方される THC カプセルより、路上で購入する大麻草の方を好む傾向があります。
医学研究の結果、体内では様々なカンナビノイドが合わさって、全体として薬効が立ち上がっていることがわかり始めています。この「微量なカンナビノイドやテルペノイド [注3] も併用した方が治療効果が高まる」という仕組みを「アントラージュ効果」と呼びます。
注3: 植物由来の匂い成分で大麻草にも多く含まれ、薬効を有する
これはまさに、アイドルグループで起きている事と同じです。グループ内で人気があった子が、ソロデビューしたら鳴かず飛ばずというのはよく見かけます。これはグループ内にいるときの方が、他のメンバーとの絡みや比較で個性や可愛さがより際立つからでしょう。
ソロよりもグループとして一緒に活動した方がより強い魅力を放つ。それはアイドルもカンナビノイドも同じなのです。
いかがでしょうか? なるべくわかりやすく、業界の専門用語を解説してみたつもりです。
医療大麻にはこのようにしっかりとした理論と、それを裏付けるデータの蓄積があります。それをなるべくわかりやすい形で、日本に紹介していくことを使命として、Green Zone Japanは活動しています。
御支援、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
コメントを残す