Seattle Hempfest 2019
今年も8月16日から18日の3日間、恒例のシアトル・ヘンプフェスに参加しました。1991年に初めて開催されて以来、今年28回目になるヘンプフェスは、10万人という入場者数のある盛大なイベントです。「プロテスト(抵抗)」と「フェスティバル(祭り)」を掛けて「プロテスティバル」とも呼ばれ、今日までアメリカの大麻合法化運動を牽引してきました。
会場のマートル・エドワード・パークはシアトルのダウンタウンにあり、有名なパイクプレイス・マーケットからも歩いて行ける、海岸沿いに 1.5キロにわたって広がる細長い公園です。バンドの演奏やスピーチが途切れなく行われるステージが2つ設置され、大麻関連商品、衣服や小物、食べ物を販売するブースの数は 700 を超えます。主催者のほか、設営から撤去まで、1,000名を超えるボランティア・スタッフがイベントを支えています。入場は無料です。
会場の一番南寄りに、リック・スミス・ヘンポジウムと名付けられた屋外テントが設営されます。ここでは3日間、大麻をめぐるさまざまなテーマについて、全米各地、ときには海外からもエキスパートが招かれてパネルディスカッションを繰り広げ、一般参加者の啓蒙の場、そして運動家たちにとっては各種最新情報を交換し合う場となっています。
私は 2010年からほぼ毎年ヘンプフェスに参加していますが、この間、アメリカの大麻合法化事情は目を見張るほどの変化が起きています。そしてヘンプフェス、特にヘンポジウムでのディスカッションにはその変化が如実に表れます。たとえば 2012年にワシントン州で嗜好大麻の合法化案が住民投票にかけられた直前のヘンポジウムはその話題で持ちきりでしたし、2013年に CNNで『WEED』というドキュメンタリーが放映された後は CBD と子どものてんかん治療について、2016年あたりからはテルペンの重要さが盛んに議論される、といった具合です。
今年話題の中心だったのは、何と言っても昨年末に可決された「農業法2018」によってヘンプの栽培が連邦レベルで合法化されたことです。すでに 2014年の農業法改訂でヘンプ由来の CBD 製品に注目が集まってはいましたが、2019年はいわばアメリカのヘンプ栽培元年。今後 2025年までに2兆円規模の市場に成長すると予測されているだけに、関心が高いのは当然です。大麻はヘンプフェスの会場では売買が禁じられていますが、ヘンプ製品は合法とあって実際の CBD 製品を販売するブースも多く見られました。
この巨大産業の創出とともに、これまで医療・嗜好大麻の合法化になんの関心もなかった人や企業が、次々とこの業界に参入しています。ワシントン州で医療大麻が嗜好大麻と同じ政府機関の管轄下に置かれたとき、それまで小規模に医療大麻のディスペンサリーを営んでいた人たちが、ライセンス取得や州の規制に準じた店の運営をするための資金がなくて業界から締め出されるという問題が起こりましたが、今回もそれと似た構図が見られます。また自分のビジネスが成功したことで、合法化活動が「おろそか」になる人も増えているといいます。
ヘンプが合法化されてCBDで大儲けをする人が出る一方で、少量の大麻所持によって長く服役している人たちの解放と権利回復を求める発言が多かったのも今回の特徴です。もともと、虐げられた社会的弱者を苦しめる間違った法律、意味のない規制に対する抵抗の祭りとして始まったヘンプフェスですから、こうした声が多く聞かれたのも当然だと思います。合法化への戦いはまだまだ続きます。
大麻草やヘンプをめぐって激しく移り変わる政治・社会情勢の中、一部の人だけが得をするのではなく、できるだけたくさんの人に公平に大麻草の恩恵が届くように、と試行錯誤しながら運動を牽引し続けるヘンプフェスに、これからも期待したいと思います。
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Cannabis Science Conference West 2019
そしてもう一つ、9月5, 6日の2日間にわたって Cannabis Science Conference にも参加しました。大麻関連の会議やコンベンションは数々ありますが、こちらはその名の通り大麻にまつわる「科学」が中心の会議です。
今年4回目というまだ若いイベントですが、基調講演に GREEN ZONE JAPAN が 2017年に日本に招いたイーサン・ルッソ博士、その他『WEED THE PEOPLE』にも登場した小児科医のボニ・ゴールドスタイン博士、東海岸で自然療法クリニックを経営する人気者ダスティン・スラック博士、退役軍人やプロスポーツ選手の大麻使用を推し進める運動の先頭に立ち絶大な尊敬を集めるスー・シスリー博士をはじめ、業界の各分野の錚々たる著名人がずらりと顔を揃える内容の濃いものでした。
会場は、オレゴン州ポートランドの中心部にあるオレゴン・コンベンション・センター。シアトルから車で5時間ほどです。初日の受付が8時に始まり、9時からは、「Analytical(分析)」「Cultivation(栽培)」「Medical(医療)」という3つの会議室で常時講演が同時進行します。いくつかの基調講演だけは全員が聞けるようになっていますが、それ以外は、自分の関心あるテーマの講演を追って会場を移動します。私は主に「Medical」の部屋で講演を聞いていたため他の部屋での講演はほとんど聞けませんでしたが、同じ団体から複数名が参加しているところは各部屋の講演を手分けして聞いていました。
各部屋の講演のテーマをほんの一部ですがご紹介しましょう。
● Cultivation(栽培)ルーム
– Genetics and Breeding
– Conscious Growing Ideas for Better Medicine
– Ultraviolet Supplement for Higher Yield, Better Quality, and Reduction of Powdery Mildew
– Maximizing Cultivation Profits Through Post-Harvest Humidity Control
● Analytics(分析)ルーム
– Genomics of Cannabinoid and Terpene Content in Cannabis
– New Methods, Hot Topics, and Emerging Issues in Cannabis QC Analytical Testing
– Standardizing the Entourage Effect: Regulating Terpenes and Flavor Additives for Inhalable Cannabis Products
– Thermal Degradation of Cannabis Extract Constituents
● Medical(医療)ルーム
– Cannabis: Leading the Way in Personalized Lifestyle Medicine
– Cannabis for Health Promotion and Disease Prevention
– The ECS, Drug Interactions, and Cannabis Strains
– Endocannabinoid Signaling: A Missing Piece in the Autistic Spectrum Disorder Puzzle?
スピーカーとして登壇した人だけで 100名以上、会議に出席した人は2日間で 3,000人だそうです。かなり専門的な内容が多いですが、完全にアカデミックというわけでもなく、幅広い分野についてバランスよく構成されていたと思います。こうした最先端の研究や開発された新技術についてまとめて聞ける機会があるというのは素晴らしいことですし、会場で作れるネットワークも貴重です。
いつの日か日本でこのような会議ができることを願いながら、2日間知識を詰め込んでパンパンになった頭で会場を後にしました。
文責:三木直子
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