東京都の薬物啓発動画に物申す

2020.04.24 | GZJ | by greenzonejapan
ARTICLE
東京都の薬物啓発動画に物申す
2020.04.24 | GZJ | by greenzonejapan

2020年3月、ツイッター上に、東京都の薬務課が作成した青少年向け反薬物キャンペーンの動画が登場しました。この動画では「大麻はお酒やタバコより安全である」という事実が嘘であるかのように述べられています。

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/no_drugs/effort/index.html

これらの情報発信について、Green Zone Japanでは以下の4つの観点から問題があると考えています。

1. 大麻と覚せい剤を同列に扱うことは青少年の薬物汚染防止に関して逆効果である
2. 信頼性の乏しい情報発信は行政への信頼を損なう
3. 医療目的の大麻・CBDの使用に対して抵抗感が高まる
4. 薬物依存症患者への差別を助長する

これらについて、東京都薬務課に電話し、課長さんに意見をお伝えしました。やりとりの抜粋を以下に紹介します。(実際には、担当者、課長補佐との2回の話し合いの後に課長さんとの通話に至っています。)


1. 大麻と覚せい剤を同列に扱うことは青少年の薬物汚染防止に関して逆効果である

GREEN ZONE JAPAN(以下GZJ): 都の動画では、覚せい剤と大麻を同列に扱い、どちらも危険なものとしています。その結果、実際に大麻に接した子どもたちが、薬物教育の内容と違って大麻が安全であることを体験した際に、覚せい剤も同程度に安全なものだと考えてしまう懸念はありませんか? 結果として、こういう動画が大麻を覚せい剤のゲートウェイドラッグにする恐れはないでしょうか?

東京都薬務課・課長(以下東京都): 捉え方によるかもしれませんが、私たちの考えでは、必ずそこまでリードしているという、そのような意図はありませんし、全般的に薬物の危険性を知っていただきたいという趣旨で作ったものなんですよ」

GZJ:有害性に関して、科学的な根拠を参照にするなら、重み付けがあると思いますが、都の方では、覚せい剤、大麻、お酒を比較したら、どういう順序になると思っていますか?

東京都:なかなか比較論は難しいと思っています。使い方、量、時期にもよるので。比較というのは簡単ではないのかなと。

GZJ:比較する研究が行われていることはご存知ですか?

東京都:それは、はい。全て知っているかと言ったらあれですが。

GZJ:どういう風に認識されていらっしゃいますか?

東京都:ランセットの論文ですよね? 論文の中ではアルコール(が一番危ない)みたいな形ですよね、たしか。

GZJ:そういう情報は認識されつつ、このような啓発活動では意図的に無視しているということなんでしょうか?

東京都:限られた時間の中で、薬物についてどういう危険性について言えるのかというので、細かいところまで表現できていないのですが、東京都としてはとにかく薬物の危険性を訴えるという形でコンパクトな物を作らせて頂いた次第です。

GZJ:結果として、あの動画を観ることで覚せい剤などのハードドラッグと大麻などのソフトドラッグの区別が付かなくなり、子どもたちの薬物による健康被害を増長する可能性について、どう思われますか?

東京都:我々はそうは思っていません。

2. 信頼性の乏しい情報発信は行政への信頼を損なう

GZJ:二点目ですが、行政に対する信頼感をこの動画が損なうのではないかと思っているのです。この啓発動画には参考文献が添付されていませんよね。都の意見は WHO や GCDP などの国際機関と部分的には矛盾します。例えるなら、天動説の時代に、都だけが地動説を唱えているように感じられます。他と違う意見を主張するなら、その根拠を明示すべきではないでしょうか?

東京都:さっきと同じ回答になってしまうんですが、限られた時間の中でそこまで入れられなかった。説明が不十分だったところはあると思います。

GZJ:それならウェブサイト上に追加で構いません。入れるべきだと思いませんか。

東京都:お酒との比較に関しては、我々は大麻はゲートウェイドラッグという点から危険と思っていまして…

GZJ:それならゲートウェイドラッグになるという科学的裏付けを明記して欲しいんです。

東京都:論文がどうこうというのを示せるかというと… 難しいところがあると思うのです。我々としては実際に(大麻をきっかけにハードドラッグを)使ってしまった方も何人も話を聞いております。

GZJ:アメリカの DEA やカナダの行政のウェブサイトの記載は確認されていますか?

東京都:していないです。

GZJ:では何を根拠に、ゲートウェイドラッグになると思ったのですか?

東京都:……カナダと日本の状況は違うと思います。

GZJ:では北米と違って、日本ではゲートウェイドラッグになるとお考えですか?

東京都:はい。そうです。日本では実際になっていますし。カナダなどの合法地域とは違うのではと思っています。

GZJ:日本で本当にゲートウェイドラッグになっているという文献的な裏付けはあるのですか?

東京都:今のところ、ないですね。

GZJ:ではどうして大麻がゲートウェイドラッグと思ったのですか? お酒はゲートウェイにならないのですか?

東京都:お酒は… あんまりなると聞いたことがございません。ゼロとは言いませんが。

GZJ:タバコは?

東京都:タバコも聞いていません。

GZJ:では大麻に関しては誰に話を聞いたんですか?

東京都:実際の使用者です。

GZJ:使用者個人とお会いになったんですか?

東京都:会ってます。

GZJ:何人くらい?

東京都:正確な数は出してませんが…

GZJ:ざっくり、数名なのか、数十名なのか、数百名なのかと言ったら?

東京都:数百はないですね。

GZJ:では何十名かはいるんですか?

東京都:そこまではちょっと…複数名はいますが。

GZJ:二人以上だけど、二桁はいないということですね?(笑)

東京都:そこはちょっと… なんとも言えないところです。すみません。

GZJ:そこは数字は出せないけれど、大麻がゲートウェイドラッグとして機能したと考えられる数例のケースを知っていて、それを根拠に危険性を主張しているということですね。

東京都:はい

GZJ:それではですね、東京都が大麻をゲートウェイドラッグと考えるのであれば、その根拠を明示するべきだと思います。私個人の情報発信でも心がけています。行政の行う仕事は尚更です。実際にアメリカでは、Information Quality Act という法律があって、これは行政の行う情報発信はエビデンスに基づいていなければならないというルールなのですが、DEA の大麻に関する情報がこのルールに違反しているとして、2017年に市民の抗議を受け、削除されてるのです。ご存知でしたか?

東京都:少し。その辺は。はい。

GZJ:どう思いますか?

東京都:東京都は嘘は言ってませんので。

GZJ:その数例の体験談って、それほど確固たる根拠なんですか?

東京都:本人の話ですから。私は信じました。

GZJ:では明日、医療大麻で病気がよくなった人がその倍の人数、そちらに伺って体験談を話たら、同じように扱っていただけるのですか?

東京都:いや、それは…。

GZJ:どんな体験談を採用して、どれを採用しないかという、その根拠を明示して欲しいのです。それが透明性ということです。これは病気の話ですよね。病気の話をするときに、拠って立つべきはサイエンスではないでしょうか? それとも政治的イデオロギーですか? 結局、ダメなものはダメ、という政治的イデオロギーに基づいて決まっていることを、サイエンスっぽく脚色しているだけじゃないかと思うのですが?

東京都:……じゃあ先生はなんでもエビデンスに基づいてやっていくべきだと?

GZJ:はい。そう思っています。特にこういう大事な話は。これは人の命がかかってる話ですよ。その自覚はありますか?

3. 医療目的の大麻・CBDの使用に対して抵抗感が高まる

東京都:そもそも大麻のような有害なものに、先生はなぜそんなに思い入れがあるのですか?

GZJ:私は大麻の医療利用に関する啓発活動に従事しています。たとえばCBDオイルってご存知ですか?

東京都:はい、知っています。

GZJ:今日本でも、他の薬が効かないてんかんの子どもたちで使用している方がいるんですよ。海外では臨床試験を経て医薬品になってるわけです。それも大麻から採れているのです。同じものなんです。そこで東京都がこのような雑な情報発信をすると、患者さんや家族はどう感じると思いますか? これが三点目の問題点です。

東京都:…………(無言)

GZJ:不安になるわけですよね。

東京都:なるほど。

GZJ:このような大麻への悪いイメージ戦略によって、使用を控える方向に働き、助かる人が助からないという状況が起きているのです、現実に。我々は、大麻は適切な使い方をすれば薬になります、決して危険なものではないですよ、という情報発信をやってるわけです。そういう我々の労力が無駄になるのです。

東京都:なるほど。今やっとわかってきました。すみません。我々も医療大麻に関して否定する考えは全く持っていないのですよ。ただ単に本当に乱用薬物としての大麻がダメだと言っているわけでして、医療大麻に関しては否定するつもりはありません。”

GZJ:それでは、その辺りの話を啓発内容に入れ込むべきではないでしょうか? 医療目的の使用が海外でされていることや、適切な使用で患者さんが助かることは認めるわけですよね?

東京都:医療大麻は否定しません。

GZJ:あなた方の情報発信が視聴者に与えるイメージは、極めて悪いものです。発信側の意向がどうかというより、受け手側がどういうメッセージを受け取るかという問題です。

東京都:確かに医療大麻に関する記載はありませんでしたね、はい。

GZJ:言及すべきだとは思いませんか?

東京都:それでですね、我々も考えたのですが、Twitter の広告の文面に、医療大麻を妨げるものではない、と記載させて頂く方向でいかがでしょうか。現在できることはこれが精一杯の対応になります。

GZJ:ではそのような対応をお願いします。

4. 薬物依存症患者への差別を助長する

GZJ:もう一点ありまして、ドラッグ依存症患者への偏見を助長するような表現は避けるべきではないかと思います。ダメ絶対!の問題点は、薬物に手を出した人が二度と社会に復帰できないという表現は、事実ではないし、差別や偏見を助長するということだと思います。そのあたりの表現には気を使うべきではないでしょうか? 今回の動画を作り直すというのは予算上も現実的ではないのかもしれませんが、次回以降更新される際には、専門家の監修などを入れて資料を作成することが望ましいと思います。

東京都:はい。わかりました。ありがとうございます。今後は気を付けたいと思います。

GZJ:大麻に関してであれば、いつでも監修させていただきますのでご相談ください。

東京都:はい。ありがとうございます。

GZJ:それでは今後は科学的な根拠に基づいた情報発信を心がけて頂けるということでよろしいでしょうか?

東京都:はい。

GZJ:ありがとうございます。長々とすみません。それではよろしくお願い申し上げます。

(抜粋ここまで)


このようにして、ささやかではありますが、我々の意向は東京都の薬物啓発活動に反映されることとなりました。行政に対する働きかけは無駄ではないということを、皆さんにお伝えできれば幸いです。

参考にこちらの YouTube ビデオもご覧ください。

大麻の安全性について
https://www.youtube.com/watch?v=5MFAFl_L2jM

大麻のゲートウェイ理論について
https://m.youtube.com/watch?v=8BamLimWSIU&t=3s

 

この動画に対する海外の識者のコメントを
『続・東京都の薬物啓発動画に物申す—海外の識者は…..』
にまとめました。

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 


“東京都の薬物啓発動画に物申す” への2件のフィードバック

  1. 鹿島直之 より:

    この前お会いさせて頂いた町田まごころクリニックの鹿島です。いつもながら、患者さんのご利益を考え抜かれた先生のご尽力は素晴らしいです。東京都民も助かりました。とても刺激になります。ありがとうございます!

  2. 川村清一 より:

    先生の行動力には感服いたします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

«
»