■ 膠原病=結合組織に起きる自己免疫疾患
膠原病とは、1942年に提案された比較的新しい病気の概念です。それまで病気は、胃や心臓などの臓器毎に分類されていましたが、そのどこにも当てはまらない病気が存在すると気がついた人がいたのです。
たとえば筋肉と皮膚の間や、臓器と血管の間。建物でいうなら、壁の内側や天井裏のような構造は「結合組織」と呼ばれますが、この結合組織に自己免疫による慢性的な炎症が起きる病気が、膠原病やリウマチ性疾患です。(膠原病というのは顕微鏡的な視点から、リウマチ性疾患というのは患者さんの症候から生まれた言葉で、厳密には定義が異なりますが本記事ではこれ以降、まとめて膠原病と呼びます。)
■ 膠原病に当てはまる病気
膠原病というのは病気のグループの名前であり、膠原病の中に個々の病名が存在します。(AKB48グループの中に、乃木坂46やSKE48が存在するのと同じです。)
最も馴染みがあるのは「関節リウマチ」ではないかと思います。これは関節の、滑膜と呼ばれる膜に炎症が起きる病気で、手の指や足の指から始まり、進行すると手首、肘、膝などの大きな関節も侵されます。患者さんは関節炎によるこわばりや痛みに加え、慢性の炎症による微熱や倦怠感を抱えながら生活することになります。
筆者は、風邪をひいて微熱があるだけでだるくて仕事にならないので、リウマチ患者さん達の苦しみは相当だろうと想像します。
参考:京都大学膠原病内科HP
http://www.rheum.kuhp.kyoto-u.ac.jp/kougennbyou
■ 膠原病は自己免疫の暴走が関係している
なぜ諸々の膠原病を発症するのか、その理由は明らかになっていませんが、遺伝的になりやすい人が存在することはわかっています。(たとえば強直性脊髄炎という病気は HLA-B27 という遺伝子を持っている人に発症しやすい、などです。)また最近では、生活習慣などの環境の影響や、腸内細菌叢の影響も考えられています。
どの病気も、本来、身体の外から侵入してくる細菌や寄生虫、ウイルスなどの外敵から身を守る為の免疫系が、誤って自分の身体に対して牙を向け始めるという共通点があります。
■ 膠原病の標準治療と問題点
そのため多くの場合、治療の柱はステロイドになります。その他にも NSAIDS と呼ばれる消炎鎮痛薬や免疫抑制剤、生物学的製剤と呼ばれる新しい種類の注射薬が用いられることがあります。
ステロイドが「効く薬」であることに疑問の余地はありません。抗生剤やワクチンに次ぐレベルの偉大な発明であり、多くの患者さんに福音をもたらしてきました。しかし、ステロイドに可能なのは炎症を抑え、病気の勢いを和らげることであり、病気の原因を取り除くことではありません。多くの場合、患者さんは長期間に渡って、ステロイドを内服し続けることになります。
そうすると、副作用に苦しむ患者さんが出てきます。10 mg 以上のステロイドの長期内服には、免疫力の低下、糖尿病、骨粗鬆症、皮膚症状、肥満、ムーンフェイス、緑内障、白内障、大腿骨頭壊死、精神症状など、多様な問題が伴う可能性があります。
また昨今登場した生物学的製剤は副作用に加え、その高額な医療費が問題となっています。
参考:生物学的製剤一覧
http://azuma-rheumatology-clinic.jp/pdf/bio_fee.pdf
■ 医療大麻と膠原病
医療大麻が膠原病に対して利用されるのは、大麻に抗炎症作用があるからです。そもそも、医療大麻が作用するエンドカンナビノイドシステムと免疫には関連があります。
エンドカンナビノイドシステムの役割は「ホメオスタシスの維持」です。体温を一定に保つ、血圧を維持する、古くなった腸の細胞を新しいものと入れ替える、血糖値が下がれば空腹中枢を刺激し食欲を惹起する。足りないものを補い、過剰なものを取り除く、不断の自動制御によって、人間は昨日と同じ身体を今日も維持することができるのです。
一方、自己免疫疾患とは「何らか原因で引き起こされた炎症が終息しない状態」です。言い換えるなら、炎症性化学物質が過剰に放出され続け、身体に害が生じている状態です。そのようなホメオスタシスの乱れを是正するために、エンドカンナビノイドシステムに働きかけるというのは、理にかなっていると言えます。実際に、CBDを含む医療大麻の分子レベルの抗炎症作用は科学的な研究が進み、関節リウマチに対して有効である可能性を論じる論文が多数報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30920973
合法地域では、実際に多くの患者さんが関節リウマチをはじめとする膠原病に対して、医療大麻を使用しているようです。以下は、2019年の欧州リウマチ学会議にて CreakyJoints という患者団体により発表されたデータです。
調査は 1,059人の患者を対象に行われました。うち関節リウマチが 46%、変形性関節炎が 22%で多数を占め、他には線維筋痛症、乾癬性関節炎、強直性脊髄炎などの患者さんが含まれました。平均年齢は 57歳で、診断からの罹病期間は平均して 14年と、長期罹患の患者さんが主でした。
回答者の 57%が大麻草やCBD製剤など、何らかの医療大麻を試したことがあると答えました。彼らが改善を期待した症状は、痛みと関節の腫れだけではありませんでした。不眠、うつ、吐き気、リラックス目的、疲労感、運動機能改善を対象に使用したという回答がありました。
調査の結果、大麻草使用者の 97%が、CBD使用者の 93%が、何らかの症状の改善が得られたと回答しています。およそ半分の患者さんが医療大麻と標準治療薬を併用していましたが、大麻製剤の使用を医師に伝えていると答えた患者さんは使用者の3分の2に留まりました。
■ サティベックスは関節リウマチの痛みを軽減
医薬品としては、THC:CBD= 1:1 の経口スプレー製剤であるサティベックスが、関節リウマチに伴う安静時の痛み、動作時の痛み、睡眠を、いずれもプラセボと比較し著しく優位に改善するという結果が、2006年に報告されています。
https://academic.oup.com/rheumatology/article/45/1/50/1788693
■ CBDと膠原病、そして未来へ
このように、医療大麻は患者が自ら取り組む代替医療として、病院の外側を舞台に、膠原病の患者さんの間で広まりつつあります。この動向に関し、2017年に医療大麻に関する情報機関である CED基金を立ち上げたボストンの内科医、Dr. Benjamin Caplan は、フォーブス誌のインタビュー対し、「医療大麻による治療とは、従来の父権主義的な医療制度によって失われた人間性を取り戻す営みであり、患者の自律こそが重要である」と語っています。
一方、標準医療を主導する医師の間では、否定的な見解も認められます。2018年に嗜好用大麻を合法化したカナダでは、カナダリウマチ学会が、医療大麻に関する立場を表明する声明を出しましたが、現時点ではエビデンスは不十分という否定的な見解でした。
http://www.jrheum.org/content/46/5/532.long
しかし、エビデンスの蓄積は確実に進んでいます。BMJ open に 2019年6月4日に掲載されたデンマークの研究チームの報告では、関節リウマチと強直性関節炎患者に対し、CBD単体と CBD+THC の有効性を評価する臨床試験が終わったということでした。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31167870
この論文は言うなれば「予告編」であり、結果は今後、国際学会と査読論文で発表するとのことですが、予告を打つということは、恐らく良い結果が出たと考えられます。
続編が楽しみです。
文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)
参考になった。