医療大麻の使用拡大に伴い、巷では多くのディスペンサリーが立ち並んでいます。
カウンターで働く販売員は「Budtender(バッドテンダー)」と呼ばれ、患者や顧客の相談に乗り、ときにアドバイスを行います。
医療大麻やCBDについては研究に制限が課されているため、一般的な医薬品にあるような用量用法、禁忌、副作用などについての公式添付文書が存在しません。教育プログラムについても、充分とは言えない状況です。実際に、医学生の 85%が医療大麻については学んでいないと回答し、90%が、処方する準備が自分にはできていないと感じているようです。アメリカでは33州で医療大麻が合法化されていますが、医療大麻についての公立研修プログラムを持つのは3州に留まります。
このような状況下で、治療家たちの診療経験やアドバイスのコンセンサスの程度について調べた研究を紹介します。
https://bmcfampract.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12875-019-1059-8
2019年12月に『BMC Family Practice』誌に掲載された上記の論文は、サンディエゴ在住のナチュロパシー(自然療法)医である Jamie Corroon 博士が執筆しています。彼自身も医療大麻クリニックを経営しています。
市中の医療大麻の治療家達を対象に、臨床経験についてのアンケート調査を行いました。結果、アメリカの 22州と12の国から、171名の回答が得られました。そのうち、なんらかの医療資格の所有者が 85%、無資格者が 15%でした。有資格者は看護師 66名、医師 39名、ナチュロパシー医が 12名でした。有資格者のうち、エンドカンナビノイドや医療大麻について、正規のカリキュラムで教わったと答えたのは 28%でした。
1:摂取方法について
摂取方法としては、経口、経皮、経気道(喫煙、Vape)の順に人気がありました。多くの患者が複数の摂取方法を併用していることが明らかになりました。
THC を摂取する場合には、経気道摂取(喫煙、Vape)が多く、CBD については経口摂取が最も一般的な投与方法でした。
2:効果がある症状について
「貴方の経験上、CBD/THCが著効したのは、どのような症状ですか?」という質問には、以下の結果が得られました。(数字が高い方が効果が強く、66以上は著効と判断されます。)
CBDがよく効く症状として挙げられたのは、てんかん、不眠、不安、痛み、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)の順でした。
ちなみにCBDを勧める目的として多いのは、痛みと炎症の軽減が1位で、不安が2位でした。
3:CBD・THC の1日摂取推奨量
「以下の主要な5症状に対して CBD/THC を主な治療手段として勧めるときに、1日の摂取量としてどれくらいを推奨していますか?」(CBD:不安、関節炎、線維筋痛症、不眠、頭痛)(THC:慢性痛、線維筋痛症、関節炎、不眠、食欲不振)という質問では、以下の結果が得られました。
CBDの推奨使用量として最も多かったのは、16〜30 mg/day でしたが、これに関しては治療家毎にかなりのばらつきが認められました。
ちなみにがんに対して最も多い推奨量は CBDで 120 mg/day 以上(15%)、 THC で50 mg/day 以上(18%)。つまり、がん治療に対しては極量を推奨する治療家が多いようですが、これも意見は分かれています。
4:ヘンプ由来 CBD (THC<0.3%) vs 大麻由来 CBD(THC>0.3%)
アメリカでは 2018年末の農業法の改正により、THC の含有比率が 0.3 %未満の大麻草の品種は「ヘンプ」として従来の THC を含む品種とは区分され、生産や流通が緩和されています。そのためアメリカ国内には、CBD アイソレート製品以外にも、微量の THC を含有するヘンプ由来CBD製品と、ある程度の THC を含有する CBD製品が流通しています。(たとえば、シャーロットちゃんが使用したことで有名になった“Charlotte’s web” という品種はヘンプに区分されますが、同じく高 CBD 品種として知られる “ACDC” は大麻に分類されます。)
これらの「ヘンプ由来CBD製品」と「大麻由来CBD製品」の比較に関しては、69%の治療家が大麻由来CBDを推奨しており、50%の治療家が「経験上、大麻由来CBDの方が効果が高い」と感じているようです。
5:CBDの副作用
患者の3分の1が、CBDによるなんらかの副作用を自覚していました。そのうち圧倒的に多いのが、疲労感・倦怠感でした(67.7%)。その他の項目の内訳で多いのは下痢でした。
6:使用を控えるべき状況(絶対禁忌)
患者に大麻製品(THC・CBD)の使用を控えるよう指示する状況については以下のような回答が寄せられました。最も多いのはTHC・CBDともに「妊娠中」でしたが、治療家の半分は問題ないと考えており、意見は二つに割れました。
7:処方箋医薬品との併用に関して
「処方箋薬の補完治療(代替治療)として、大麻を勧めたことがある場合、どのような薬の補助として推奨しましたか?」という質問に対しては以下の回答が得られました。
8:大麻関連の問題
「貴方の患者で DSM-5 が定める物質使用障害を満たす人はいますか?」という質問に対しては、回答者の 90%が「大麻離脱症状」の患者を経験したと回答しました。一方で、「大麻使用障害」に該当する患者を経験したことがある治療家は 6%に留まりました。
この調査は、市中の治療家を対象とした初めての研究とのことです。医療大麻の適応や副作用、代替可能な処方箋薬については、これまでに知られている事実を改めて確認する結果になりました。
一方で、どれくらいの用量を使用すべきかという点や使用を控えるべき状況についての見解は、治療家ごとに大きく異なり、現時点では合意は形成されていないことが明らかになりました。この背景には客観的データが乏しく、公的なスタンダードも存在しないことが治療家達に独自の方法論の開発を強いているという現状があります。今後の研究の進歩が望まれます。
文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)
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