9月15日、とある報道に接し、私は自分の目を疑いました。
愛知県警によると、容疑者はラインのオープンチャット上で「やっぱ Weedうまいーっ」など、「大麻使用を示唆する投稿を行うことで薬物の使用をあおった」容疑で逮捕されたとのことです。
大麻には使用罪はなく、所持、栽培、売買、密輸などの容疑で逮捕されるのが従来の取締りですが、使用を示唆するコメントを SNS に書き込むだけで逮捕というのは、これまでの一線を超える内容です。案の定、SNS 上では「私も逮捕されるのだろうか?」という動揺が広がっています。
本件に関し作家・編集者の草下シンヤ氏が釈放後の本人に確認したところ、以下の事実が判明しています。
・二人は Line のオープンチャットの管理人&副管理人であった。
・長期の内偵捜査が行われていた。
・愛知県警が「麻薬特例法違反」の疑いで捜査令状を片手に家宅捜索に来た。
・過去に持病(頸椎症など)に対して大麻を使用した経験があったが、捜査時には自宅からは違法薬物は見つからなかった。
・そのまま車で7時間かけて愛知県警へ移送され、一泊二日の取り調べが行われた。大麻の売買に関与した事がないことを明言した。
・拘留2日目に処分保留で名古屋駅にて釈放された。交通費の支給などはなし。
長期の内偵捜査が行われていたことから、単純所持でなくオープンチャットを利用し大麻の販売を行なっていたことが疑われていたのでしょう。経緯からおそらく不起訴になる可能性が高いと思われます。
◯ Lineのオープンチャットとは? メッセージアプリの Line が 2019年8月に開始したサービスで、Line ユーザーはメインアカウントと切り離して匿名で、様々なグループに参加し会話することが可能です。また誰でもグループを立ち上げることが可能です。Line 上での匿名掲示板のようなものでしょう。 ◯麻薬特例法とは? 麻薬特例法とは、大麻、覚せい剤、麻薬(LSDなど含む)などの全ての違法薬物に関し、従来の規制法を補完する目的で 1991年に制定された法律です。 https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=403AC0000000094#50 一連の事件(後述)では、上記の9条および8条2が適用されているようです。
実は、大麻の使用を煽ったことに対する麻薬特例法9条での「逮捕」はこれが初めてではありません。2019年12月には、「TheHighClass」というウェブサイト上で大麻の栽培方法を掲載していた方が、同じく特例法9条違反の疑いで逮捕され実名報道されています。取り調べでは大麻の売買についての追求があったそうですが、そのような事実はなく結果的には不起訴となりました。
以下が本人による youtube 動画です。
https://m.youtube.com/watch?v=45ais3bRTBA
また報道はされていませんが、2019年8月には中国四国厚生局麻薬取締部が、SNS を使用し大麻を購入した妊婦さんの自宅に家宅捜索に入った事があります。彼女に大麻を販売した側が先に逮捕され、芋づる式に捜査の手が及んだようです。自宅では違法薬物は見つからず、尿検査も陰性でした。高松のマトリ事務所での取り調べで「何でも正直に話せば大丈夫」と言われたのを信用し、過去の使用歴などの話をしたところ、この方は麻薬特例法8条2の容疑で在宅起訴され、有罪となっています(執行猶予付き)。
上記の3例を分析すると、以下のような捜査の流れが想定されます。
A:捜査機関はオンライン上の投稿から、大麻が手元にあることを疑う際(特に販売を行なっている事が疑われる場合)に、麻薬特例法の容疑で令状を取得する。
B:踏み込んだ際に、「現物」があった場合は従来の大麻取締法で逮捕、立件する。
C:現物が見つからない場合は、特例法違反の容疑で身柄確保し取り調べを行う。
D:容疑者が売買を自供した場合、特例法8条2の違反で起訴→有罪
E:売買の証言が得られない場合は、特例法9条だけでは(おそらく)起訴されない→無罪
日本では、一旦起訴されれば有罪率は99%を超えていることが知られています。
しかし刑事事件で逮捕されたうち、起訴されるのはおよそ半分のようです。(交通違反を除く)
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/65/nfm/n65_2_2_2_3_0.html
つまり過去の判例などから、確実に有罪にできると確信があるものだけを立件するということでしょう。
9条による大麻使用の「煽り」に対する起訴に関しては、これまでに前例がありません。それはまた、表現の自由の問題にも深く関連してきます。仮に SNS で大麻の使用を煽ったことで有罪になるなら、例えばアメリカの映画やプロモーションビデオでの大麻喫煙シーンを含むものを流通させている大手の映画配給会社やレコード会社もまた、法的責任を問われる可能性があります。
それらの点を考えると、「特例法9条違反」とは、現物を押さえるために踏み込む際の方便として使われていると考えるのが妥当です。これらの件では結果的に不起訴であったにも関わらず、実名報道されたことによる社会的な被害が発生しています。これは推定無罪の原則から外れているように思われます。
基本的には情報発信だけで罰せられた前例はありません。純粋な情報発信については、萎縮する必要はないでしょう。海外から発信を行なっている方に関しては、帰国するのが不安という気持ちはよくわかります。しかし、合法地域での大麻所持・使用を理由に国内で逮捕された例は私が知る限りは存在しません。密輸などの従来の規制行為に該当しない限り、特に問題なく帰国できるのではないかと思います。
これらの特例法違反報道には、捜査機関による見せしめの意図が感じられます。改めて遺憾の意を表明したいと思います。
文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)
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