アルコール依存症と大麻・CBD

2020.10.04 | 国内動向 病気・症状別 | by greenzonejapan
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アルコール依存症と大麻・CBD
2020.10.04 | 国内動向 病気・症状別 | by greenzonejapan

2020年 9月 22日、元 TOKIO の山口達也さんが飲酒運転に伴う交通事故で逮捕されました。

過去にもアルコール絡みのトラブルを引き起こしていることや、午前中からアルコールが検出されている点から、アルコール依存症に該当するのではないかとの見解が支配的です。

アルコール依存症とは

お酒によって自分や周囲に問題が起きているにもかかわらず、それでもお酒をやめられない状態がアルコール依存症です。以下の項目のうち、2つ以上当てはまる場合には依存症の可能性があります。

日本におけるアルコール依存症の生涯罹患率は 0.9% であり、お酒を常飲する人の 20人に1人がアルコール依存症の定義を満たす可能性が指摘されています。
https://www.greenzonejapan.com/2020/09/11/4406/

大麻の方が酒より安全

日本では忘れられがちですが、アルコールもまたドラッグの一種です。

そしてお酒の健康への影響は、大麻のそれを著しく上回ることが科学的に示唆されています。以下の表は現時点でのドラッグの害悪研究の決定版とも言える、Nutt 博士による Lancet 2010 から引用作成したものですが、アルコールの害悪スコアは 72点と、大麻の 20点を大きく引き離しています。

実際に平均寿命が 80歳程度の現代でも、アルコール依存症患者の寿命はおよそ 50歳ということが広く知られています。

大麻による「ハームリダクション」

なんらかの失敗を教訓にきっぱりと断酒できれば、それが望ましいことは言うまでもありません。しかし現実的には、「やめたくてもやめられない」のが依存症の本質です。そのような場合に、なるべく被害を減らすための諸々の取り組みを「ハームリダクション」と呼びます。
http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2934.pdf

依存の対象をお酒からより害の少ない大麻へと代替していくのも一つの方法で、海外ではすでに実践されています。

2001年、医療大麻合法化の父ことトッド・ミクリヤ博士は、自身がアルコール依存症に対して医療大麻の許可証を発行した 92名の記録を解析し、全員が医療大麻の効果を実感していることを報告しました。(「大変有効」- 50%、「有効」- 50%)


https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J175v04n01_04

また 2009年、カリフォルニア大学バークレー校のアマンダ・レイマン博士が地元の患者さんを対象に行った調査では、回答者の 40%がお酒の代用品として大麻を使用したことがあると回答しています。
https://harmreductionjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/1477-7517-6-35

かつて大麻は、ハードドラッグの入り口になるのではないかと考えられていましたが、現在ではむしろ、薬物依存症からの出口としての期待が集まっています。

CBD とアルコール依存症

CBDは直接的に脳に作用して飲酒への欲求を低下させ、アルコール消費量を減らし、不安と衝動を抑制することが動物実験で明らかになりつつあります。

加えて注目を集めているのが、腸内細菌叢ー腸ー脳軸(MGBA)に対する作用です。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31803950/

現在、うつ病やパーキンソン病などのさまざまな病気と腸内細菌叢の関係は、最先端の研究トピックの一つです。アルコール依存症患者においても、腸内細菌叢のバランスの変化が起きています。その結果、腸管の血管透過性が亢進し、LPS(リポ多糖)などの毒素が吸収され全身に回り、微小な炎症を引き起こすことになります。

この微小な炎症が、不安や渇望、欲望のコントロールの低下に関連しているとする研究結果が報告されています。

MGBA の乱れによって起きる症状(うつや不安)とアルコール依存症の症状は、部分的にはオーバーラップしていますが、MBGAの乱れの影響があるのかもしれません。

腸内細菌叢への影響に関して、CBD はアルコールと逆の方向に作用し、抗炎症作用によって微小な炎症を抑制することで、アルコール依存症の症状を緩和する可能性が指摘されています。

残念ながら現時点では、アルコール依存症と CBD の関係に関する人を対象とした研究は行われていません。しかし、ヘロイン依存症患者に対しては二重盲検ランダム化比較試験が実施され、病的な欲求と不安を抑える効果が示されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31109198/

 

これらの結果から、CBDはアルコール依存症の治療薬として有望であると考える根拠は充分と言えるでしょう。

それだけでなく、CBD はお酒の酸化ストレスによるダメージから肝臓を保護する可能性が動物実験で示されています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0891584913015670

日本でもハームリダクションの概念と共に、医療大麻や CBD の可能性が広まることを願っています。

 

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

 

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