2020年12月2日。国際薬物政策上の歴史的な転換点が訪れました。国連麻薬委員会(CND)が、加盟国の投票の結果、1961年に制定された「麻薬に関する単一条約」の分類上での大麻の扱い見直しを決定したのです。これはおよそ半世紀ぶりの快挙です。
国際条約上、大麻の扱いはどうなっていたのか?
そもそも大麻規制に関する国際条約には (1) 1961年制定の「麻薬に関する単一条約」と (2) 1971年制定の「向精神薬条約」の二種類が存在します。いずれの条約も、様々な薬物を危険性や有用性に応じて、Ⅰ 〜 Ⅳの4群(スケジュール)に分類しているのですが、この分類の定義がややこしいことになっているのです。
1961年の単一条約では危険性の高い順に Ⅳ、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ と分類され、大麻は最も危険性が高く医学的な価値がないとされるスケジュール Ⅳ に区分されていました。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=88243
一方で 1971年の向精神薬条約では、危険性が高い順に Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ と分類されており、こちらでは大麻はスケジュール Ⅰ に分類されています。
これまでの国際条約上で、大麻が「依存性が高く医学的有用性がない薬物」とみなされているということに違いはないのですが、1961年の条約ではスケジュール Ⅳ、1971年の条約ではスケジュール Ⅰ と呼んでいるわけです。
今回、何が変わって何が否決されたのか?
今回の投票の結果、大麻は 61年条約のスケジュール Ⅳ の「危険性が高く医学的な価値がない薬物」という分類から外れ、スケジュール Ⅰ の「医学的有用性は認められるが依存性が強く、取り扱いに注意が必要な薬物」のカテゴリーに位置することになりました。つまりこれまで、モルヒネなどの医療用麻薬よりも危険で役に立たないという扱いから、医療用麻薬と同じ扱いに昇格したということです。
日本の大麻取締法の第4条では大麻の医療目的の施用が禁止されていますが、今回の改定により、国際条約との齟齬が生じることになります。
実は昨年、世界保健機関(WHO)は6つの変更を勧告していましたが、今回多数決によって採択されたのはそのうちの一つだけです。
その他の勧告には、大麻の抽出液やチンキ(主に医薬品として使用される)をスケジュール Ⅰ から除外し、薬局で市販されている咳止めシロップ(コデインを含有するもの)と同じ扱いにするという提案、THC 0.2% 未満の CBD製品を規制物質として扱わないという脚注をつけるという提案が含まれていました。しかしこれらは 27 対 24 および 28 対 23 で否決されました。
https://www.marijuanamoment.net/united-nations-removes-marijuana-from-most-strict-global-drug-category-with-u-s-support/
大麻解禁に賛成した国、反対した国
今回の改定は麻薬委員会に参加している 53カ国の投票による多数決で行われました。(構成する国は任期4年で入れ替わります。)大麻の医学的有用性を認める(スケジュール Ⅳ からの除外)ことに関して賛成票、および反対票を投じたのは以下の国々です。
賛成した国:オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、コロンビア、クロアチア、チェコ、エクアドル、エルサルバドル、フランス、ドイツ、インド、イタリア、ジャマイカ、メキシコ、モロッコ、ネパール、オランダ、ポーランド、南アフリカ共和国、スペイン、スウェーデン、スイス、タイ、イギリス、米 国、ウルグアイ
反対した国:アフガニスタン、アルジェリア、アンゴラ、バーレーン、ブラジル、ブルキナファソ、チリ、中国、コートジボアール、キューバ、エジプト、ハンガリー、イラク、カザフスタン、ケニア、キルギスタン、リビア、ナイジェリア、パキスタン、ペルー、ロシア、トーゴ、トルコ、トルクメニスタン、日本
一般的な日本人が感じる国際的な帰属意識とは異なるサイドに、日本政府が立っているように感じるのは筆者だけではないでしょう。
日本への影響は?
このように国際条約上の扱いが変更されることで、日本国内での法律には影響があるのでしょうか? この件に関して、筆者は 2020年 11月に厚労省監視指導麻薬対策課に非公式に確認を取りました。その際の担当官によると、各国が独自の裁量で国際条約より厳しい規制を取ることは禁止されていないとのことでした。
つまり、既に医療大麻を許可している世界 50カ国や、嗜好大麻を解禁しているカナダやウルグアイが国際条約に違反している状態であり、今回のルール改定は、それらの国の立場を追認するものと言えるでしょう。この回答からも、日本政府や厚労省が今回の規制変更に対して、ただちに対応する可能性は低いと考えられます。
しかし一方で、今回の規制変更には米国も賛成票を投じています。近日中にアメリカ連邦法でも More Act と呼ばれる大麻関連法案の可決が議会で審議される予定です。連邦レベルでの大麻解禁は最早、時間の問題と言っていいでしょう。
合衆国法の改正がなされれば、日本への影響は必至です。 今後国内においてもより一層の活発な議論を行なっていく必要があるでしょう。
文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)
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