ー イタリアの事例 ー
大麻の合法化によって医療用麻薬の処方量が低下することは、合衆国の複数の州で確認されていますが、イタリアではより幅広い医薬品の大麻への置き換えが報告されています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167629620301132?via%3Dihub
イタリアの大麻事情
世界の多くの国と同じく、かつてはイタリアでも大麻は広く栽培されており、1940年代にはソビエト連合に次ぐ世界第2位の生産量を誇っていたそうです。しかし、1950年代以降の化学繊維の発達、そして 1961年以降の国際的な薬物規制によって徐々に下火となり、1975年の薬物規制法案の通過に伴い国内の大麻畑はほぼ壊滅状態に追い込まれました。
しかし近年の大麻の産業的価値の見直しに伴い機運が高まり、イタリア政府は 2016年の産業大麻合法化法案(法案 242/16)を可決しました。これは THC 0.2% 以下の産業大麻(ヘンプ)の国内栽培を促進する目的で作られたのですが、結果的に THC 濃度 0.6% 未満の「カンナビス・ライト」と呼ばれる大麻・CBD製品の国外からの流入を認める形になりました。
その結果、法案が施行された 2017年 5月以降、イタリア全土でヘンプや CBD製品を扱う店舗が出現し始めたのです。当初、グロウショップなどの大麻カルチャー拠点から始まった流れは一気に加速し、カンナビス・ライト製品を扱う店舗の増加は社会現象となりました。(※この解禁に対しては 2019年 5月に再規制がかかっています。)
この「カンナビス・ライト」のブームが処方箋医薬品の流通に与えた影響について、マグナ・グラエキア大学経済社会学部のVincenzo Carrieri 教授の研究チームが興味深い報告を行なっています。
彼等はイタリアの皆保険制度上で使用される医薬品のうち、CBD・医療大麻で代用できるとされている薬の流通量が、カンナビス・ライトブームの前後でどのように変化したかに着目しました。
具体的には (1) 睡眠薬 (2) 抗不安薬 (3) 抗てんかん薬 (4) オピオイド系鎮痛薬 (5) 偏頭痛治療薬 (6) 抗精神病薬 (7) 抗うつ薬 の 7種類です。
するとその全ての処方量が、カンナビス・ライトの合法化後に減少していることがわかりました。
具体的に睡眠薬の処方量は 9.5% 減少しました。抗不安薬は 11.4%、抗てんかん薬は 1.5%、オピオイドは 1.2%、偏頭痛治療薬は 0.9%、主に統合失調症の治療薬である抗精神病薬は 4.8%、抗うつ薬は 1.2% 減少し、全体としては 1.6%、処方箋医薬品の処方量が低下したことが明らかになったのです。
繰り返しになりますが、イタリアで合法化されたのは THC 含有量が 0.6% 未満で、ハイになる事のない CBD 優位の製品だけです。しかも皆保険制度上で処方箋医薬品をもらう分には、患者さんは自己負担がありません。にもかかわらず、睡眠薬や抗不安薬の全体的な流通量が1割程度低下したというのは、多くの患者さんがお金を払ってでも処方箋医薬品から医療大麻に切り替えることを選んだ可能性を示唆しています。
日本においては現在、THC が検出されない茎・種から採取された CBD だけが流通可能となっていますが、これを諸外国のように THC 濃度 0.2〜1% 以下の製品を許可する制度に変更すれば、多くの患者さんにとって福音となる事は間違いないように思われます。
※ イタリアの医療大麻制度
イタリアは2013年に医療大麻を合法化し、医師が処方できるようになっています。
ただし対象疾患は限定的で、かつ標準治療が効果のない患者に限定されるようです。加えて保険が効かない上に、使用する大麻は主にオランダからの輸入に頼る形で制度が開始された為、金銭的な負担が非常に大きい事が問題視されました。
これを解決するため、2014年にイタリアの防衛大臣はイタリア軍に医療大麻の栽培を指示、現在では年間に 300 kg 以上の医療大麻が軍から患者へ供給されています。
また 2020年現在、嗜好目的の少量所持は非犯罪化されています。
文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)
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