医療大麻と強迫性障害

2021.01.17 | 病気・症状別 | by greenzonejapan
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医療大麻と強迫性障害
2021.01.17 | 病気・症状別 | by greenzonejapan

強迫性障害(OCD:Obsessive Compulsive Disorder の略)とは、自分の意思に反して、不合理な考えやイメージが頭に繰り返し浮かんできて、それを振り払おうと同じ行動を繰り返してしまう病気です。手を洗ったあとでも汚れが気になったり、戸締まりを何度も確認したくなったりする経験は、誰にでもあることでしょう。しかし強迫性障害では、それが習慣性をともない、どんどんエスカレートして日常生活に支障をきたすほどの状態になります。

日本において、この病気は成人の 40人に1人の割合で見られるといわれています。その発症年齢は早く、多くは 19 ~ 20歳です。成人患者の 30 ~ 50% は小児期から青年期に症状が出始めていることがわかっています。

現時点で OCD に有効とされる治療は認知行動療法と SSRI の服用のみです。しかし患者さんの3分の1はこれらの治療に反応しないと言われており、その他の選択肢が切実に必要とされています。

OCD の患者さんでは、セロトニンや GABA、グルタミン酸、ドーパミンなどの様々な神経伝達物質の乱れが起きているのではと考えられており、これらの物質のバランスを整えるエンドカンナビノイド・システム(ECS)には治療のターゲットとしての期待が集まっています。

実際に、病態が似ているパニック障害患者では、エンドカンナビノイドの基礎値が健常者に比べて高いことが 2020年に報告されています。これはおそらく、その他の神経伝達物質のバランスを取るために ECS が慢性的に過興奮の状態にあるということだと考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33091759/

ドイツのハノーバー医科大学の精神科医である Natalia Szejko らは、2020年に医療大麻で OCD の症状が劇的に改善した 22歳の男性の症例を報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32848902/

患者は3歳頃から執拗に扉を閉じたがるなどの OCD の症状を呈し、寛解と増悪を繰り返しながら 17歳頃にはうつ症状が出現しました。OCD の診断は 21歳時に下され、SSRI の一種であるクロミプラミン 25mg/day を服用開始しましたが、吐き気と頭痛の出現により1週間で中止となりました。著者の病院に辿り着いた段階で、1日に 20回以上の手洗いと1時間以上のシャワーを繰り返していました。

彼が Szejko らの病院に辿り着いたのは、大麻が効果があると密かに感じていたからでした。16歳の時に初めて嗜好品として大麻を使用し、強迫症状の劇的な改善を自覚してから、彼は密かに週に3〜4回の頻度で大麻を吸うようになっていました。一度大麻を使用すると症状は 12 〜 15時間は改善した状態が続くとのことでした。また大麻を吸った日の方がよく眠れることも自覚していました。特に副作用は認められませんでした。このように改善を自覚していましたが、彼は 20歳時点で違法な大麻使用を止めることを決断しました。(違法であることと、逮捕による運転免許の失効を恐れての判断でした)

ドイツでは医療大麻が合法であるため、著者らは医療大麻の処方を決めました。

彼がかつて吸っていた違法大麻の THC 濃度が不明であったため、著者らは2種類の品種を処方しました。一つ目がベドロカン(THC 22%:CBD < 1%)、もうひとつがベドロビノール(THC 13.5%:CBD < 1%)どちらも、オランダのベドロカン社が育てた GMP基準を満たす医療大麻品種です。

ベドロカンの方が効果があると本人が感じたため、同品種を1日 0.2 〜 0.3g 処方したところ、彼の症状は 70%以上改善し、再びスポーツを始め、大麻使用開始から 20ヶ月後には動物飼育員の資格も取得し、定職に就く事ができました。初診時には 32点だった OCD の重症度スコアは 20ヶ月後には2点まで改善しました。


OCD に対するカンナビノイド医療の有効性については、これ以外にも報告が挙がっています。2008年には、同じくドイツの医師である FRANK SCHINDLER らが、ドロナビノール(THC医薬品)を標準治療に追加したところ、症状の劇的な改善を得た2例を報告しています。
https://ajp.psychiatryonline.org/doi/pdf/10.1176/appi.ajp.2007.07061016

2017年にはシカゴ大学のジョセフ・クーパーらが、脳梗塞の後遺症として出現した難治性の OCD に対して、ドロナビノールが奏功した例を報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27539378/

また 2021年 3月には、ナビロン(THC アナログ)に加えて、カンナビノイドを付与した群で症状の改善が得られたという小規模な比較研究を報告する予定です。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7206660/?report=reader


これらの報告はいずれも小規模なものであり、また比較試験も行われていないため、プラセボ効果の可能性も否定は出来ません。しかしながら、これらの患者が実際に大麻の使用によって著しい改善を得たという事実は、今も苦しむ患者さん達にとって希望になり得るように思います。

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

 

 

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