2021年4月27日、ボクシングWBOスーパーフライ級王者である井岡一翔選手が年末に行った防衛戦の際のドーピング検査で、大麻成分が検出されていたことが報じられました。[1]
検出された成分名に関しては報道されていませんが、日本ボクシングコミッション(JBC)が警察に通報したという事態から推察されるに、THCもしくはその代謝物が検出されたと考えるのが妥当でしょう。
井岡選手の代理人弁護士は意図的な不正薬物の摂取を否定し、使用していたCBDオイルの影響ではないかとコメントしています。果たして日本で流通するCBDオイルがドーピング検査に抵触する可能性はあるのでしょうか?
そもそも、CBD自体は2018年に世界アンチドーピング協会(WADA)が指定するドーピング薬物から除外されています。一方でTHCを含むCBD以外の大麻成分に関しては、依然としてWADAのドーピング規制薬物に分類されています。[2]
(現実的には競技ごとにTHC規制は緩和される傾向が続いています。米大リーグは2020年から大麻を禁止薬物リストから除外しました。[3]総合格闘技団体であるUFCは2021年1月に、今回の井岡選手ようなケースはドーピングとは判断しない方向へ規則改定を行いました。[4])
CBDは問題ないという合意が形成されているが、THCに関しては過渡期にあり、競技毎に対応が異なるのが、現時点でのスポーツ界と大麻の関係と言えるでしょう。
しかし問題はTHCとCBDの両成分が同じ植物から抽出されることです。
“ゼロカロリー“と表示されているものにも、実際には微量のカロリーが含まれるように、THCを含有しないとされるCBD製品も、極めて高い精度で検査を行えばTHCを検出することは可能です。
日本へのCBD製品輸入に関しては、THCが“非検出“であることが条件ですが、検出限界(何%以下をゼロにして良いのか?)に関しては、監視指導麻薬対策課は明示していません。そのため、輸入企業はそれぞれ手探りで製品の輸入許可申請を行なっています。
2020年11月の臨床カンナビノイド学会学術集会で報告された日本大学の赤星先生の調査によると、THC含有量0.02%を検出限界としている企業の製品は正規の審査で“非検出“として輸入を認められています。[5]
しかし一方で0.02%のTHCを含むCBD製品の使用で、ドーピング検査に引っ掛かる可能性があることが学術的に報告されています。[6]ハーバード大学医学部の関連病院の一つであるマクリーン病院の研究チームが2021年に報告した研究成果によると、不安障害に対する治験のため0.02%のTHCを含むフルスペクトラムCBDオイルを用いて、30mg/dayのCBDを4週間の間、摂取していた患者14名の尿中の大麻成分を検査したところ、7名の尿からTHCの代謝物(THC-COOH)が検出されたのです。
この研究に用いられたのは米国で“ヘンプ“から製造された製品であり、大麻とは法的に区別され自由に流通しています。アメリカでは運送業などの領域で抜き打ちの薬物検査が行われ、陽性者は解雇されることがあります。これらの製品の使用が薬物検査に抵触することは、社会的に大きな問題を引き起こし得ることを著者らは指摘しています。
今回の騒動で、井岡選手には“大麻を吸っているのではないか?“という疑惑がかけられているようですが、これらの情報を総合すると、日本国内で合法的に流通するCBDを使用していただけでもドーピング検査に抵触する可能性はあると言えるでしょう。(THCの含有量を測定する定量検査を行えば、使用していたのがCBD製品なのか、大麻なのかを区別することは可能でしょうし、警察は検査を行ったはずです。)
強調しておきたいのは仮にドーピング検査でTHCが検出されるとしても、このレベルの摂取量では実際にTHCの精神作用が生じることはなく、嗜好品として乱用される恐れはないという点です。安易な規制論に発展しないことを強く願います。
[1]https://news.yahoo.co.jp/articles/bb2738196492be7c673979f7f2e1df897613c807
[2]https://www.wada-ama.org/en/questions-answers/cannabinoid
[3]https://jp.reuters.com/article/mlb-marijuana-idJPKBN1YH09B
[4]https://jp.ufc.com/news/40808
[5]http://cannabis.kenkyuukai.jp/event/event_detail.asp?id=43091
[6]https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/fullarticle/2772629
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