2018年10月、カナダでは嗜好品としての大麻が合法化されました。これは先進的な試みであり、継続的な規制と管理の適正化が重要と考えられています。そのためにカナダでは2017年より毎年、国民を対象とした大麻についての大規模実態調査が行われています。今回は2020年の調査結果について解説したいと思います。
今回のアンケート調査は2020年4月〜6月の期間に、カナダ全土からランダムに選ばれた16歳以上の10,822名を対象として行われています。
大麻についての意見・見解
1:大麻の有害性についての見解
大麻の喫煙者・非喫煙者の過半数が大麻が時に健康被害を引き起こし得ると考えていることがわかりました。連日の大麻使用が精神疾患のリスクを高めると考える人の割合は前年の75%から66%へと低下しました。
2:信頼に足る情報にアクセスできているか?
回答者の77%が大麻の大麻の健康への影響について、信頼できる情報にアクセスできていると回答し、この数字は前年(71%)より上昇しました。一方で、政府が作成した“安全に大麻を使用するためのガイドライン10項目“について知っていると回答したのは10%に留まりました。
https://www.camh.ca/-/media/files/pdfs—reports-and-books—research/canadas-lower-risk-guidelines-cannabis-pdf.pdf
3:大麻についての啓発キャンペーンへの暴露
回答者の78%が何らかの大麻に関する啓発活動に触れていました。一度も気が付かなかったと答えたのは前年の24%から22%へと低下しました。
4:自宅での大麻環境
大麻を使用しない人に関しては、自宅で他者が大麻を使用する経験は喫煙10%、エディブル7%、Vape3%であったのに対して、大麻を使用する人ではそれぞれ72%、66%、58%でした。
またカナダ人の7%が自宅や周囲で誰かが大麻を育てていると回答しました。(使用者ではこの数字は15%でした。)また自宅に大麻成分を含む食品・飲み物が常備されていると答えたのはカナダ人の7%に達しました。(大麻使用者では19%でした)
5:受動喫煙
カナダ人の36%が過去30日以内に公共の場での受動喫煙を経験したと回答しました。
6:社会的な受容
大麻の使用に関しては、機会喫煙に関しては60%が、常用に関しては50%弱が受容できると回答しました。タバコを吸うよりは大麻の方が受容できるとカナダでは考えられていることが明らかになりました。
7:常用時のリスクに関する認識
嗜好品の使用と健康へのリスクについては、ほとんどの人が機会的な飲酒や大麻喫煙は健康へのリスクがないと考えていることがわかりました。また常用する場合については、タバコ、電子タバコ、大麻Vape、飲酒、大麻喫煙、大麻食品の順に危険性が高いと考えられていることが明らかになりました。大麻の常用リスクについては、使用者と非使用者で認識に大きな違いが認められました。
8:妊娠・授乳
妊娠・授乳中の大麻使用に関しては、88%が同意しませんでした。大麻使用者においても83%が同意しませんでした。過去5年以内に出産経験がある女性では、妊娠中・授乳中に大麻を使用したのは4%・6%でした。
9:大麻の習慣性についての意見
90%が大麻使用には習慣性があると認識していました。
大麻使用の実際について
10:大麻使用
カナダ人の27%が過去1年以内に大麻を使用しました。これは前年の25%より2ポイント高い値でした。男性の31%、女性の23%が使用者でした。年齢別では16-19歳の44%が、20-24歳の52%が25歳以上の24%が大麻の使用者でした。またバイセクシャルの55%、ホモセクシャルの43%、その他のセクシャリティを選択した者の45%が大麻使用者でした。カナダ生まれの大麻使用率(31%)は、海外で生まれた市民(15%)の二倍でした。学生(29%)や就労者(29%)の大麻使用率は、学業に従事しない者(26%)や非労働者(22%)と比べて高い傾向にありました。高卒以下の最終学歴の者(32%)は、大学院卒以上(19%)と比べて大麻使用率が高い傾向がありました。
11:COVD-19の影響
新型コロナ感染の流行の影響で、大麻使用量に変化があったかという質問には、56%が変化がないと回答しました。使用量が増えた・減ったと回答したのはそれぞれ22%づつでした。
12:使用開始年齢
大麻の初回使用年齢は、平均で20.0歳でした。これは2017年の18.6歳及び2019年の19.2歳より軽度上昇しています。
13:大麻使用の頻度
過去1年以内の大麻使用者のうち、およそ半分は月に2~3回以下の使用に留まりました。常用しているのはおよそ半分でした。
14:どれくらいの時間“ハイ“になっているか?
過去30日以内に大麻を使用したと回答した18%を対象に、大麻を使う日にどれくらいの時間、ハイになっているかという質問をしたところ、3~4時間が36%、1~2時間が35%、1時間以下が14%、5〜6時間が9%、7時間以上が7%でした。
15:仕事や学校の前にハイになる頻度
大麻を使用する学生に、登校前の2時間以内に大麻を使用する経験について質問したところ、74%は経験がない、15%が稀に使用することがある、6%が頻繁に登校前に使用すると回答しました。ほとんどの学生(95%)は大麻の影響で学校を欠席することはないと回答しました。成人の出勤に関しては、出勤直前に大麻を使用することが稀にあるのは10%、頻繁に使用するのは5%でした。
16:使用方法
最も多かったのは喫煙(79%)でしたが、これは前年(84%)よりも減少していました。食品としての摂取は前年の46%から52%へ増加し、Vapeでの摂取は27%から24%へと減少していました。ボルケーノなどの気化装置の使用は12%でした。
17:大麻製品の形態
最も広く使用されているのは乾燥大麻で、食品、濃縮製剤、Vape、ティンクチャー、ハシシの順でした。前年と比較しシェアを伸ばしていたのは食品だけでした。
18:THC・CBD濃度
29%が高THC・低CBDの大麻を、11%が低THC・高CBDの大麻を、10%がTHCとCBDを均等に含む大麻を、6%がTHCのみの製品を、2%がCBDのみの製品を使用し、16%はそれらを組み合わせて使用していました。自身が使用する大麻製品のTHCやCBDの濃度について知らないと回答したのは25%で前年の32%より低下しました。
19:一日の使用量
平均的な1日の使用量は乾燥大麻で1.1 gでした。濃縮製剤では0.3 g、ハシシでは0.4 gでした。
20:その他の薬物との併用
酒やタバコとの併用に関しては上記の表の通りでした。その他の薬物との併用に関しては、違法オピオイド(99%)、処方箋覚醒剤(96%)、処方箋オピオイド(95%)、処方箋鎮静薬(95%)、違法覚醒剤(94%)違法幻覚剤(91%)が一度も経験がないと答えました。
21:大麻使用の効果
過去1年以内に大麻を使用した経験のある方を対象に、大麻が生活に与える良い影響・悪い影響について意見を求めたところ、人間関係、身体の健康、心の健康、家庭生活、生活の質の5領域では“役に立つ“という意見が“害になる“という意見より圧倒的に多数でした。職業・学業的なパフォーマンスへの影響についても、役に立つと考える人が害になると考える人の3倍多いという結果でした。
22:専門家の助けは必要か?
人生で一度以上大麻を使用した経験のある人のうち、97%が大麻の使用に際して医師の処方やカウンセリングなどの専門的な介入を必要としないと考えていることが明らかになりました。
23:大麻の保管場所は?
使用者に大麻の保管場所を確認したところ、鍵のない引き出し・キャビネット(36%)、子供が開けられないコンテナ(30%)、鍵のかかったコンテナ(19%)、テーブルや扉のない棚(17%)との回答が得られました。
24:大麻の使用を公にするか?
現在、大麻の使用は合法ですが、自分が使用者であることを公にすることについての見解を確認したところ、既に公にしていると回答したのが25%で、公にすることに積極的な人は51%、他人に知られたくないと考えているのは18%でした。
25:大麻をどこから入手するか?
大麻の入手経路は上記の表の通りでした。
26:合法・非合法な入手経路の利用頻度
合法・非合法な入手経路の利用頻度に関しては上記の通りでした。
27:どこから入手するかに関して、重視する項目
28:一ヶ月の平均消費金額
カナダの大麻使用者は平均して、月に67カナダドル(6,000円)を使用していました。また過去30日以内に大麻を使用したユーザーに、この一ヶ月で合法・非合法の大麻市場でそれぞれいくらの出費があったかを確認したところ、合法=49ドルに対して、非合法=47ドルでした。乾燥大麻1 gに対して、平均的に支払われた金額は10.48カナダドル(940円)でした。お金を払わずに入手している人も多く、大麻使用者の11%は乾燥大麻を無料で、17%はエディブルを無料で入手していました。
運転と大麻
29:大麻使用直後に運転したことがあるか?
2時間以内に運転したことがあると回答した者のうち、19%が大麻とアルコールを併用して運転した経験があると回答しました。また7%がその他のその他のドラッグと併用で運転した経験があると回答しました。運転した理由については、運転能力に問題がないと思った(78%)、注意して運転できると思った(24%)、近くだから(23%)、その他の手段がなかった(12%)、捕まらないと思った(9%)その他(8%)でした。
30:大麻の運転への影響についての意見
全体の83%が大麻は自動車の運転に影響を与えると考えていました。大麻使用者においても77%が影響があると回答しました。大麻使用者のうち、運転に影響がないと回答したのは7%でした。
医療使用について
対象者のうち、1606名が過去1年以内に医療目的で大麻を使用したと申告し、そのうちの905名が詳細な追加調査に回答しました。
31:医療大麻患者の割合
カナダ人のうち14%が過去1年の間に医療目的で大麻を使用したと回答しました。そのうち、医師による大麻患者の診断書を取得していたのは24%に留まり、76%は医療機関からの診断書を有していませんでした。
32:その他の処方薬の変化
57%の患者が大麻の使用に伴い、その他の治療薬を減らすことができたと回答しました。
33:医療大麻の使用頻度
医療目的に大麻を使用する人の頻度は上記の通りでした。
34:医療用途に使用される製品のタイプ
主要なものは乾燥大麻(54%)、ティンクチャー(48%)、食品(33%)でした。Vape(14%)や塗布薬(18%)、濃縮製剤(10%)、ハシシ(9%)飲料(4%)を医療目的に使用すると回答した方も存在しました。26%が高CBD・低THCの大麻製品を、21%が高THC・低CBDの製品を、12%がTHCとCBDを均等に含む大麻を、15%がCBDのみの製品を使用し、14%はそれらを組み合わせて使用していました。自身が使用する大麻製品のTHCやCBDの濃度について知らないと回答したのは7%でした。
35:平均的な一日使用量と金額
乾燥大麻に関しては、平均して1.8 gでした。(これは嗜好利用の平均、1.1 gより多い量になります。)一ヶ月の消費金額は平均して93カナダドル(8400円)でした。患者の91%が彼らの医療保険は大麻をカバーしていないと回答した一方で、5%の患者は部分的にカバーされ、4%の患者は医療大麻を保険が完全に支払ってくれていると回答しました。医療用途の乾燥大麻1 gに対して、平均的に支払われた金額は13.48カナダドル(1200円)でした。
36:医療大麻と運転
医療目的の大麻使用が運転能力を低下させるか?という質問に対しては、“低下させると思う“が46%、“影響はないと思う“が21%、“状況による“が27%でした。実際に医療大麻の喫煙から2時間以内に運転を経験したことがあるのは患者の20%でした。
考察
カナダ人の4人に1人以上が過去1年以内に大麻を使用している事実は、大麻が一部の特殊な人たちの嗜好品でなく、人々の生活の一部として定着しつつあることを示しています。使用者の回答からは、大麻が人間関係を円滑にし、精神と身体の健康を整え、生活の質や生産的なパフォーマンスを高めてくれていることが感じられます。
とはいえ、ほとんどのカナダ人が大麻が無害であるとは考えていないことも明らかになりました。大麻には習慣性があり、タバコほどではないにせよ、高い頻度で常用することは社会・健康なリスクが伴うとみなされているようです。
実際には使用者の半数は月に数回程度の利用に留まっており、大麻と上手な付き合い方ができていると考えられました。毎日使用すると回答したのは、使用者の18%であり、成人の5%以下と考えられました。
ここで注目すべきは、医療用途に使用している層では、35%が“毎日使用する“と回答していることです。(処方箋薬が基本的に毎日使用されることを考えると、これは驚くには値しません。)このことから考えられるのは、連日大麻を使用する5%のカナダ人の多くが、医療目的に大麻を使用しているのではないか?と考えることもできます。
合法化に伴って開始された啓発活動により、大麻に関する正しい知識は徐々に広がりつつあるようです。また大麻の使用開始年齢は近年、徐々に上昇してきています。これはイリーガルではなくなったことで、未成年を惹きつける魅力のようなものが低下したためかもしれません。
一方で政策的な課題も明らかになりました。合法化に伴い課税されることで、正規の市場製品は金額が上昇する傾向にあります。実際に1 gの医療用大麻が平均13.48カナダドルというのは比較的高額と言えるでしょう。
この課税による金額の高騰の影響を最も強く受けるのは、医療用途に連日、大量の大麻を使用している患者さん達です。医療目的の大麻が保険でカバーされない現状では、金銭的な問題から非合法市場で製品を求める以外に継続が困難となり得ます。結果的に、ニーズの多くがアンダーグラウンドマーケットへ流れつつある状況が調査から明らかになりました。この辺りが一部で“カナダの合法化は失敗した“と評される理由でしょう。
データを収集し、それに基づいて修正しようというカナダの政策立案の方針は、エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング(EBPM)と呼ばれます。これは日本政府の事実から目を背けて、利権と慣性に沿って行われる政策決定と真逆の姿勢です。大麻問題に限らず、変化の激しい現代において、データに基づいて適切な対策を取ることの重要性は増しています。この国においても、EBPMの精神が導入されることを望みます。
文責:正高佑志(Green Zone Japan 代表理事。医師。日本臨床カンナビノイド学会理事。)
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