大麻とスポーツについて 2021

2021.07.13 | 大麻・CBDの科学 海外動向 | by greenzonejapan
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大麻とスポーツについて 2021
2021.07.13 | 大麻・CBDの科学 海外動向 | by greenzonejapan

スポーツと大麻の関係について議論が沸騰しています。

発端は、シャカリ・リチャードソンが五輪の女子100 m走代表を決める選考会で優勝した後に、ドーピング検査でTHCが検出されたことでした。

7月2日、アメリカアンチドーピング機関(USADA)は、彼女が一ヶ月の資格停止処分を受け入れたことを発表し、これによってリチャードソンは五輪への出場資格を取り消されることになりました。

彼女がウサイン・ボルト以降、最も注目を集めるスプリンターであり、五輪の優勝候補であったために、この問題は大きな議論を巻き起こしています。

大麻使用の理由についてリチャードソンは、選考会の1週間前に母親が亡くなったため、悲しみを乗り越えるために大麻を使用したと述べています。彼女が大麻を使用したオレゴン州では大麻の使用は州法で合法となっています。普通に生活する市民には許される権利が彼女には認められていないということを意味します。

我々は2019年7月に“変わりつつある大麻とスポーツの関係“という記事を公開しましたが、それ以降の2年で矛盾した状況を解消すべく、アメリカのスポーツ界では大麻を巡る規則の見直しが急速に進んでいます。四大スポーツと呼ばれる、野球、バスケットボール、アメリカンフットボール、アイスホッケーの現状を見ていきましょう。

メジャーリーグでは2002年に選手組合が、大麻のドーピング検査と厳罰を止めるようリーグ側に交渉したことにより、一軍登録選手には抜き打ちの尿検査はなくなり、大麻使用の罰則は軽度の罰金に留まっていました。これは事実上「非犯罪化」のと言えます。

一方、2軍以下の選手には極めて厳しい罰則が設けられていましたが、2020年から正式に除外され、選手が大麻使用によるペナルティーを課されることはなくなりました。選手は未だ大麻企業とスポンサー契約を結ぶことは許されていませんが、大きな進歩と言えます。1

大リーグの選手組合が、わざわざ抜き打ち検査をやめるように交渉したことは、著名な野球選手の中にも大麻の愛用者が多いことを暗示しています。

バスケットボールの世界では、選手の大麻喫煙率はさらに高いようです。

正確な数字は誰にも分かりませんが、NBAで15シーズンに渡りプレーし、2015年に引退したケニオン・マーティンという選手は“NBAプレイヤーの85%は大麻を吸っていると思う“と発言していますし、2020年に匿名で行われた調査でも50-85%の選手がなんらかの形で大麻を使用しているという結果が得られています。2

これまでNBAの大麻に対する罰則は一度目は注意のみ、二度目は罰金(25,000ドル)、三度目で5試合出場停止というものでした。1度目、2度目の違反は公にされないため、どれくらいの選手が抵触しているのかは明らかになっていません。

このルールも2021シーズンから改定され、大麻はドーピング検査の対象から除外されています。3

選手の大麻産業との関心も高まっており、往年のスタープレイヤー、マジック・ジョンソンはCBD製品をプロデュースしています。4

バスケットボールと同じかそれ以上に大麻使用が一般化しているのが、アメリカンフットボールの領域です。上記の85%発言を受けて、元NFLプレイヤーのマルセラス・ベネットは“NFLでは89%が使っている“と発言しています。5

実際に、アスリートの大麻使用の権利を求める団体にはNFLの選手が目立ちます。

その背景にあるのは、アメフトという競技の特性です。球技に分類されてはいますが、格闘技並みのフィジカルコンタクトが発生するため、選手は慢性的に怪我や痛みに悩まされています。鎮痛手段の一つとして大麻が活用されているというのは驚くに値しません。また後遺症の一つとして慢性外傷性脳症(パンチドランカー)の問題があり、こちらに対しても大麻の神経保護作用が期待されています。

(詳細は過去記事をご覧ください)

アメフトの世界でも、2020年に大麻に関する規制が変更されました。6

これまでのガイドラインでは、過去に違反歴のないNFLプレーヤーは、オフシーズンに一度テストを受けていました。そしてレギュラーシーズン中は、チームごとに10人のプレイヤーが毎週無作為に選択されてテストを受け、検査で陽性が出ると、薬物乱用防止プログラムへの参加を義務付けられていました。2回目の違反は2試合分のギャラを、3回目の違反は4試合分のギャラを罰金として徴収され、4回目の違反は4ゲームの出場停止、5回目の違反は10試合の出場停止、6回目の違反は1年間の出場停止でした。

今回の改訂によって出場停止措置は撤廃され、罰金のみの処分へと緩和されました。またドーピング検査が行われる期間が短縮され、陽性基準値もこれまでの35 ngから150 ngへと引き上げられました。これはCBD製品の使用に伴う罰則を回避するためと考えられます。7

4大スポーツの残り一つは日本でほとんど馴染みのないアイスホッケーですが、これは大麻に対して最も寛容な姿勢を示しています。

選手にはランダムのドーピング検査が課されていますが、THCが検出されても罰則はありません。選手には医師から治療プログラムへの参加が提案されるが、それを受けたかどうかもリーグに伝える必要はないとされています。実質的な非犯罪化と言えるでしょう。8

ホッケーが氷上のスポーツである関係上、プロチームの本拠地の多くはカナダや北部に偏っています。それらは政治的にはリベラルで大麻の規制緩和が進んでいる地域であることがリーグの方針にも影響していると考えられます。

このように、今回のリチャードソンの処分は過去1〜2年の間にメジャースポーツで大麻の規制緩和が相次いでいるタイミングで起きたものです。このことが追い風となり、米国では彼女を擁護する声が各方面から上がっています。

 

ネット上で彼女の五輪出場を嘆願する署名は50万筆を超えています。9

彼女のスポンサー企業であるNIKEや数々のアスリートが一斉に擁護の声を上げ、アメリカの陸上競技連盟は選手を支持し規則は見直されるべきだとの声明を出しました。10,11

大麻に対して批判的な立場のバイデン大統領からも“規則は規則だが、残すべきかどうかは別問題だ“とルール改正に賛同する発言がありました。12

これらの全方位からの批判を受け、処分を発表したUSADA自体も見直しを示唆する声明を出しています。13

今回、リチャードソンは祖国に金メダルをもたらすことができませんでしたが、一連の出来事はより大きなギフトをアメリカのスポーツ界に届けることになるかもしれません。

参考文献:

1)https://weedmaps.com/news/2020/03/mlb-baseball-players-can-smoke-cannabis-but-cant-be-sponsored-by-weed-companies/

2)https://www.forbes.com/sites/bencurren/2021/01/28/the-nbas-slam-dunk-cannabis-shift/?sh=65bdf000fec1

3)https://www.marijuanamoment.net/nba-players-wont-be-tested-for-marijuana-next-year-as-league-weighs-permanent-change/

4)https://www.forbes.com/sites/javierhasse/2020/08/04/magic-johnson-cbd/?sh=3929252d1d11

5)https://www.usatoday.com/story/sports/nba/2018/04/20/former-nba-nfl-athletes-estimate-marijuana-use-players-high/536254002/

6)https://hemptoday-japan.net/7679

7)https://www.sportingnews.com/us/nfl/news/nfl-new-marijuana-policy-rules-cba-2020/1svd83aq5q0m71x4t2rftto1m5

8)https://www.espn.com/nhl/story/_/id/26046596/is-nhl-future-marijuana-pro-sports-why-be

9)https://sign.moveon.org/petitions/let-sha-carri-run

10)https://www.huffingtonpost.jp/entry/sha-carri-richardson-suspension-cannabis-olympic_jp_60e260ebe4b03f72964b9364

11)https://www.marijuanamoment.net/usa-track-and-field-team-says-marijuana-punishments-should-be-reevaluated-following-richardson-suspension/

12)https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-05/QVQJBFDWLU6D01

13)https://www.marijuanamoment.net/white-house-and-u-s-anti-doping-agency-criticize-marijuana-ban-after-richardson-suspension/

文責:正高佑志(Green Zone Japan 代表理事。医師。お医者さんがする大麻とCBDの話【彩図社】)

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