PDはふるえ(振戦)、動作緩慢、体のこわばり(固縮)、転びやすさ(姿勢反射障害)などを主な症状とする病気で、基本的には高齢者の病気です。
国が定める難病の一つに指定されていますが、比較的患者数が多く、60歳以上に限ると100人に一人が罹患すると言われています1。
PDは運動の制御に関わる脳の部位(中脳)の神経細胞が減少することで、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質が足りなくなることが主な原因ですが、その他にもミトコンドリアの機能障害や酸化ストレス、カルシウム代謝、神経炎症などの様々なメカニズムが複雑に絡み合い発症すると考えられています。
足りなくなったドーパミンを薬で補うことは有効な手段ですが、これは症状を和らげるための治療であり、病気の進行を止めるものではありません。また運動症状以外の様々な問題が合併しますが、中にはドーパミン補充だけでは十分な効果が得られない場合があります。ドーパミン系以外に作用する治療法の開発には大きな意義があり、実際に必要とされています。
2000年代の前半にPDの動物モデルや実際の患者で、エンドカンナビノイドの基礎値が上昇していることが相次いで示され、これはドーパミンの不足を補うためにエンドカンナビノイドが代償性に活性化しているのではないかと考えられています2,3,4。CBDはエンドカンナビノイドを活性化させることが知られており、この領域で新規の治療薬としての可能性が期待されているのです。
実際に論文検索サイトであるPubmedで“CBD”+”パーキンソン病“で検索すると、この記事を執筆している2021年7月13日時点で、ちょうど100件の検索結果がヒットします。残念ながら、その多くは実は関係のない論文であったり、動物実験の結果やレビュー論文であり、人を対象とした研究報告として目ぼしいものは4報でした。
1本目は2008年にブラジルのサンパウロ大学の精神神経医学教室から報告された論文です5。この小規模な研究で対象となったのはPDに精神症状を合併した患者群でした。幻視や妄想などの精神症状に対しては、一般的にはドーパミンを抑制する種類の薬が使用されます。(抗精神病薬)しかしPD患者さんは、ドーパミンが足りないことで具合が悪くなっているので、当然ですがそのような薬を使用することができません。何か他のメカニズムで精神症状をコントロールすることができないかと考えた際に白羽の矢が立ったのが、統合失調症の治療薬候補として注目を集めていたCBDだったのです。この研究はオープンラベルの小規模試験で、6症例に対してCBDを自由な量(150 mg/dayから開始)で4週間飲んでもらい、精神症状の変化を評価しました。すると運動症状を増悪させることなく、精神症状を改善することができたのです。
この研究を発展させる形で、同じチームが2014年に発表したのが、2本目の報告になります6。今度はPD患者21名をランダムに3つのグループに分け、それぞれに①CBD 75 mg/day ②CBD 300 mg/day ③プラセボを投与し、運動症状や生活の質(QOL)についてのスコアの変化を評価しました。すると①の少量投与群では③のプラセボ群と違いがありませんでしたが、②の300 mg/dayを使用した群ではプラセボ群と比較し、QOLの著しい改善が得られたのです。
2020年にはサンパウロ大学とサンカルロス連邦大学老年医学教室が共同で、CBDがPD患者の不安を和らげる作用があることを報告しました7。この研究では、300 mgのCBDを内服したPD患者にSPSTと呼ばれる負荷試験(カメラの前でスピーチをしてもらい心拍数など緊張の指標を測る)を行いました。するとプラセボを使用した場合と比べ、明らかに不安が軽減されることが示されました。
さらに2020年12月には、コロラド医科大学からもPDを対象とした小規模試験の結果が報告されました8。こちらでは、13名のPD患者にエピディオレックスを5 mg/kg/dayから投与開始し、20-25 mg/kg/dayまで増量し症状の改善があるか評価しました。全ての患者に軽度の副作用が出現し、3名が途中で使用を中断しました。最後まで服用を継続した10例では、重症度のスコアが平均7.7点改善し、夜間睡眠と感情の制御にも著しい改善が認められました。
このようにいずれも小規模な研究結果ではありますが、パーキンソン病患者の運動症状、不安、精神症状、生活の質などの多くの面にわたってCBDは役に立つ可能性があります。今後、さらなる研究が行われることを願っています。
参考文献:
1:https://www.nanbyou.or.jp/entry/169
2:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10877836/
3:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12177188/
4:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15852389/
5:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18801821/
6:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25237116/
7:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31909680/
8:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33381646/
執筆:正高佑志(一般社団法人Green Zone Japan代表理事。医師。著書に「お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)」)
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