4月に日本語字幕をつけて公開した『スケジュール1』という映画は、卵巣がんと闘病中のミシェル・ケンドールさん自らが、医療大麻によるがん治療の可能性について、その最新の研究の状況を自分の体験を交えて伝えたものでした。公開後、オリジナルの英語版を上回るほどのたくさんの方が見てくださっています。
ミシェルに触発されて、クラブハウスでも「大麻草でがんは治せるか?」というタイトルのシリーズを始め、ミシェルにも2回参加してもらいました。
ミシェルは闘病の様子をブログに綴っており、『スケジュール1』以降の彼女の様子も気になって覗いていましたが、9月26日、悲しい投稿がありました。治療の手が尽き、痛みがどうしようもないので、尊厳死を選ぶことにした、という衝撃的な内容でした。びっくりしてすぐに本人に連絡したところ、このブログ記事を訳して日本の皆さんにも読んでもらって欲しい、とのことでしたので早速訳したのが下の記事です。
To be or not Doobie 残念ながら体内に入れた胆汁ステントは効果がありませんでした。2週間前に UCLA にもう一度行って、体外からの胆汁排出をしましたが思ったほどの効果がありませんでした。胆汁はどうしても体から出てこようとせず、私は黄色いウンパルンパみたいです。 毎日々々、「生きるべきか、死ぬべきか?」と考えています。 痛みはもうどうしようもありません。肝臓の炎症のせいで熱があり、生きるのに必要な食べ物と水が入る余裕が私のお腹にはありません。治療のオプションも尽きました。残念ながら、先週末、この美しい世界にさよならを言うときが来た、と決心しました。 カリフォルニア州に End of Life Act があることを本当にありがたく思います。おかげで私は、この生を手放すときを選ぶことができるのです。ここでもやはり私は、ステレオタイプや障壁やスティグマを打ち壊そうとしています。 死ぬ前に、近くにいる人、遠くにいる人、友人になったばかりの人、昔からの友人、そのすべての人が私の旅路をともにしてくれたことに対して、私ががどれほど感謝しているかを伝えたいと思います。Ridley Tree の、私を担当してくれたインフュージョン・チームの皆さんの、限りない優しさにもとても感謝しています。 あと数週間で、私がこれまで折に触れて予告してきた、重大な謎の論文が PubMed に掲載されます。死んでいく女が自分の命を救うためにできる限りのことをし、アメリカでは研究ができないから他の国で研究を行った——なかなかの物語だと思います。論文掲載のお知らせとリンクを貼りますから、このブログを見ていてくださいね。そして、その人に関心があろうとなかろうと、あなたが知っているすべての腫瘍内科医にそれを送ってください! みんなで協力して、カンナビスに関する科学を前進させ、医療大麻に対するスティグマや法的な障害と闘って欲しい—それが死んでいく私の願いです。カンナビノイドによるがん治療という新しい分野を始めるときなのです! さようなら。あなたたちのことは忘れません。 Michelle
死を目前にしながら、冷静に、力強く、ユーモアまで交えたミシェルの記事には強く心を動かされます。この遺志を継いで、医療大麻についての理解を広める活動を続けていかなければ、と思いを新たにしています。
なんだ、結局医療大麻でがんは治らなかったんじゃないか、という声が聞こえてきそうですが、考えてみてください。もしも 1971年に大麻がスケジュール1の違法薬物に指定されず、この 50年間、世界中で研究が行われていたら、もしかしたら今ごろ、どんながんにはどんなカンナビノイドが効くのか、それが明らかになり、大麻によるがん治療が可能だったかもしれないのです。ミシェルの作ったドキュメンタリーのタイトル『Schedule 1』には、そんな思いが込められています。
この記事の中で触れられている、ミシェル自身のがん細胞を使ってイスラエルの Koltai Lab. で行われた研究の結果が論文として掲載されましたら、その内容についても詳しくお伝えします。
『スケジュール1』をまだご覧になっていない方は、どうぞ是非ご覧ください。またこの映画のウェブサイトには、医療大麻によるがん治療に関する科学的な情報が満載です。クラブハウスでも引き続き、医療大麻によるがん治療の実際についての生の声をお届けしていきます。(セッションのお知らせを受け取りたい方は、クラブハウスで @naokomiki をフォローしてください。)
さようならミシェル。そしてこちらこそ、あなたの勇気をありがとう。
文責:三木直子(国際基督教大学教養学部語学科卒。翻訳家。2011年に『マリファナはなぜ非合法なのか?』の翻訳を手がけて以来医療大麻に関する啓蒙活動を始め、海外の医療大麻に関する取材と情報発信を続けている。GREEN ZONE JAPAN 共同創設者、プログラム・ディレクター。)
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