医療大麻は様々な症状や疾患に対して活用されていますが、心筋梗塞などの循環器領域においては、これまで学術的にはネガティブな影響が報告されてきました。2020年2月に我々は”医療大麻と高血圧・循環器疾患”という記事を掲載していますが、そこでも大麻使用が心筋梗塞のリスクを若干増加させる可能性について言及しました。
一方で、高血圧や狭心症の症状管理に大麻が有用であるというポジティブな影響についてはインターネット上では散見されるものの、学術的な報告はこれまで認められませんでした。そのような状況において、2021年3月にニュージャージー州の内科医Brian L. Shafferらが不安定狭心症に対して医療大麻が奏功したという症例報告にはささやかながらも確かな意義があると言えるでしょう。
報告された症例は63歳の男性で、過去には麻薬捜査官として働いていた方でした。若い頃はタバコを吸っていましたが、41歳で心筋梗塞を起こして以来、禁煙していました。2009年に循環器内科をフォローアップのために受診した際に、運動負荷試験で胸部症状が認められたため、カテーテル検査が施行されました。その結果、冠動脈の高度な狭窄が主要な血管に認められました。三枝病変(LMCA、LAD、RMCA)と呼ばれる状態で、この時点で手術は困難と判断されました。対応としてステントが留置されましたが、翌2010年から労作時の胸痛と呼吸苦が出現するようになりました。主治医は内服薬を調整し、再度カテーテル検査を行いましたが、これ以上のステント留置は不可能と判断されました。患者は労作時の胸痛と不快感を訴え続け、2012年には安静時にも症状が出現する不安定狭心症へと進行しました。彼の症状に対して標準薬物治療は効果がありませんでした。
それから5年後、2017年10月から患者は医療大麻治療を検討し始めます。この時点で既に医療用麻薬(塩酸モルヒネ)を使用していましたが、歩行などの軽い運動で7/10程度の呼吸苦が出現するようになり、日常生活に支障が出ていたそうです。また運動しなくても1日に数回の胸痛・呼吸苦が出現していました。このタイミングで患者は大麻を使用開始したのです。
導入後の初めての外来で、患者は胸痛の頻度が低下したことを報告しました。また歩行距離も伸びたとの事でした。この時点で彼が使用していた大麻は主にTHC優位でCBDをほとんど含まないものでした。大麻の開始後から、麻薬の使用頻度は8時間毎から1日1回に減りました。その2ヶ月後に、患者はCBDを豊富に含む品種のエディブルを併用開始しました。すると翌月には胸部症状は50%程度に改善しました。更にその2ヶ月後には胸痛は週に数回まで減少したため、患者は医療用麻薬を減量し4ヶ月後に使用中止しました。共通発作の頻度は低下し、運動能力も徐々に改善していきました。大麻の使用開始から1年半後、2019年3月の外来受診では、前年の7月からの10ヶ月間で胸痛発作は2回しか起きなかったと報告されました。患者は現在CBD:THC=15:1 もしくは6:5の製品を主に使用しています。経過中に患者が使用した大麻の品種一覧は以下の通りです。
これらの症状緩和に加えて、基礎研究の結果から大麻の使用は心筋を保護し、心不全を予防する作用が期待されています。今後の更なる研究が楽しみな領域です。
執筆:正高佑志(Green Zone Japan代表理事。医師。書籍に“お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)“)
今まで医療大麻というものには懐疑的で効果はあるだろうけど、自分には当てはまらないと思い続けていました。
しかし、今回の記事で胸痛があってから使い始めて1年で効果があるというのには驚きを隠せません。
自分はまだ今回のレシピエントのように高齢ではありませんが、すでにバイパス手術から丸10年を迎えまして多少の胸痛を認めます。
この分野ではCBDではなくTHCに効果があるように書かれていましたが、あくまでTHCAの表記はなくエディブルでないことも原文を見てわかりました。
今後の研究に期待させてもらいたいですね、できれば自分の身に何かが起きる前に。