先日、THC、CBDに継ぐカンナビノイドとしてCBGを取り上げました。
もしかすると、現時点で日本のユーザーにとってCBGよりも馴染みがあるのは、CBN(カンナビノール)かもしれません。
2021年に登場したCBN製品は、日本でもVapeを中心に急速に知名度を高めつつあります。この物質について、現時点でわかっていることをまとめます。
○CBNの歴史と作用、医学的な可能性
CBNは大麻草に含まれる特異的成分(カンナビノイド)の一種ですが、その含有量は少ないためレア・カンナビノイドに分類されています。CBNが発見されたのは1896年の出来事であり、1932年にはその化学構造が同定されています。つまり最初に発見されたカンナビノイドということになります。(1964年にTHCが発見されるまでは、CBNが大麻の精神作用の源となる物質と考えられていたようです。)人に対する作用が研究、報告され始めたのは1975年頃で、THCと同時に摂取することで、眠気などを増強することが報告されています。
CBNを用いた人を対象とした臨床研究は、そのほとんどが1970年代〜80年代にかけて行われたものであり、健常者を対象とした安全性試験に留まっています。実際に病人を対象とした有効性試験は2021年の不眠を対象としたオーストラリアの治験以外は行われていません。しかし基礎研究の領域では、鎮痛作用、抗菌作用、抗炎症作用、抗けいれん作用、骨形成促進作用、食欲増強作用などの種々の医学的効果・効能が期待されています。
○CBNはキマるのか?
現在の日本の市場で注目を集めている理由は医学的効能よりも軽い精神作用が得られるという風評ではないでしょうか?
CBNの立ち位置を一言で表すなら、THCをマイルドにしたものということになるでしょう。実際にCBNはカンナビノイドの代謝経路上、Δ9-THCの下流に位置しています。つまり、THCが変成することで作られるのがCBNということになります。
実際にCBNはTHCを含む大麻草を長期間寝かせたり、加熱することによって製造されるのが一般的なようです。
CBNはCB1受容体に部分的に結合することが知られており、THCと比べて1/10〜1/4以下の軽い作用をもたらすとされています。そのため厳密な意味では精神作用があると言えます。しかし、英語圏の情報では多くの場合、CBNはTHCと異なりハイにはならないと紹介されています。THCと比較した場合には、その精神作用は微々たるものであり“精神作用はない“として扱われるのでしょう。
○CBN=眠りをもたらす特効薬?
英語圏の情報ではCBNはもっぱら眠りをもたらすカンナビノイドとして紹介されています。この話の起源は“大麻をフレッシュなものより、寝かせたものの方が鎮静作用が強くなる“という大麻使用者の間の経験談のようです。
後に科学的な検証の結果、大麻を貯蔵する間にTHCがCBNに変換されることが明らかになり、CBNは睡眠効果をもたらすカンナビノイドとして認知されるようになり、若干の科学的検証がそのことを裏付けています。しかしこれらの検証は厳密性に欠けており、現時点ではCBNの睡眠導入剤としての立場は確立されたものではありません。“ユーザーは事業者の広告を鵜呑みにすべきではない“とサンディエゴのナチュロパシー医であり、医療大麻についての研究業績を有するジャミー・コルーン氏は警鐘を鳴らしています。
○なぜこのタイミングでCBNは登場したのか?
今回の執筆のためにウェブ記事の検索を行いましたが、Leaflyが2015年にCBNについての記事を掲載していたのを除けば、ほとんどの記事が2021年に記載されたものでした。CBNに注目が集まり始めたのは、合衆国でも2021年のことと言って差し支えなさそうです。
この古いカンナビノイドに脚光が当たった理由ですが、一つには2018年末の法改正により、2019年から0.3%以上のTHCを含有しないヘンプ製品の規制緩和が行われ、そのタイミングで始まった製品開発が市場で結実し始めたのが2021年ということなのかもしれません。またCBD価格の急速な下落の結果、多くの企業が新しいフロンティアを求め始め、CBNに白羽の矢が立ったという側面も考えられます。
○CBNを使用する上での注意点
現時点では日本でもCBNは合法ですが、法的なトラブルに巻き込まれる可能性が全くないとは言い切れません。2020年3月、ユタ大学の研究者たちがTHCの5~20倍の濃度を超えると、CBNもTHC検出の為の尿検査で陽性反応を呈する可能性について報告しています。これは交差反応と呼ばれる検査エラーの一種なのですが、仮に突然の職務質問や尿検査に対応し、捜査機関職員に正しい知識がない場合は拘留される可能性があるでしょう。CBNの使用者は事情を理解し、丁寧な説明を行うべきです。
CBDを世に送り出したのは、大麻草の復権を望む活動家たちの献身と熱意でした。
CBNの場合は商業的な思惑が先行している印象を受けます。これがTHCが法的に使用できない状況下で、ある種の代用品として活用され続けて行くのか、それとも一時のブームとして消費されるのか、試されるのはこれからでしょう。
執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事 著書にお医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)がある)
“THCの5~20倍の濃度を超えると、CBNもTHC検出の為の尿検査で陽性反応を呈する可能性”
とのことですが、これは
「THCが検出不可能なほど低濃度な製品のはずだが、CBNがそのTHCの5〜20倍入っていると陽性になる可能性がある」
という意味でしょうか?
THCの5~20倍の検出閾値でCBNは検出されるということです。
例えば私は今CBDとCBNがどちらも1,000mg配合されたオイル(カンナビノイド2000mg)を毎日10滴程度ずつ飲んでいます。今私が尿検査に応対した場合「THC陽性」とされる可能性がありますか?
それであれば使用を取りやめようと感じました。