最近 NASDAQ に上場したことが話題の、シアトルに本拠を置く大麻関連ポータルサイト Leafly.com。その CEO がなんと日本人、しかも女性ということで、関心を寄せている方も多いはず。Green Zone Japan は昨年 11月、ご本人にインタビューを行いました。(インタビューは英語で行っています。)
生い立ちと経歴
GZJ:ヨウコさんはアメリカ生まれですか?
Yoko Miyashita(YM):いいえ、日本生まれです。父は京都、母は長崎の出身ですが、父は東京で働いていたので、私は千葉で生まれました。千葉の「葉」で葉子です。両親は私が生後 18か月のときにアメリカに移住したので、教育はアメリカで受けました。父も母も、兄弟の中でアメリカに移住したのは一人だけだったので、叔父や叔母、従兄弟、親戚はみな日本に住んでいます。
GZJ:日本にはよくいらっしゃるんですか?
YM:毎年行くようにしています。夫はアメリカ人で、16歳と13歳の子どもがいます。両親は1年のうち半分は京都に住んでいるので、子どもたちを連れて両親のところに帰るんです。
GZJ:それは素敵ですね。今日お話を伺いたいと思ったのは、日本で、どうして日本人女性が Leafly の CEO なんだろう? と不思議がっている人の声を耳にしたからなんです。興味を持っている人は多いと思います。葉子さんが Leafly の CEO になったのは 2020年 8月 と聞いていますが、それ以前は Leafly の顧問弁護士をされていたんですよね?
YM:はい、2019年 5月に Leafly の顧問弁護士に就任しました。その前はゲッティイメージズという大きなメディア企業の顧問弁護士でした。つまり、もともとはメディア畑にいたんですが、弁護士であったということが、大麻業界を理解するのにとても役立ちました。
GZJ:Leaflyに入社する前から大麻については詳しかったんですか?
YM:ええ、ワシントン州に住んでいますからね。ご存知の通りワシントン州は全米で最初に嗜好大麻を合法化した州です。誰でも家の近くにある店に買いに行けるわけですし、それ以前にも医療大麻は合法でした。つまり私は大麻合法化や市場の動きの最先端の州に住んでいるわけです。
Leafly と日本
GZJ:Leaflly が起業した 2010年頃は、Leafly というのはディスペンサリーのリストだと思っていましたが、今は科学的なこと、法的なこと、社会的なことを含む包括的なサイトになっていますね。
YM:ディスペンサリーのリストである前に、Leafly は大麻の品種についての情報源として始まったんですよ。大麻の品種はそれぞれ化学組成が違って、異なったカンナビノイドやテルペンを含んでいるでしょう? でもそれを消費者が分かる形で説明したものが当時はなかったの。それがなければ、消費者にはいろいろなニーズがあるのに、自分のニーズに合った品種が選べない。だから、Leafly はもともと、消費者が自分のニーズに合った大麻の品種を選ぶことができるよう、大麻について理解してもらいたくて始まったんです。そうしてウェブサイトの読者が増えたから、その人たちに向けて広告したいディスペンサリーが集まった、ということです。
GZJ:なるほど。葉子さんは CEO として広範な責任をお持ちだと思いますが、中でも特に注力している分野というのはありますか?
YM:おっしゃるとおり私はこの組織全体に責任があるわけですが、Leafly の重要性は、教育、情報、データ、科学にあると思っています。インタビューの前に少し調べたんだけれど、日本にだって大麻草を使ってきた長い歴史があるわけよね? 大麻草には人間が使ってきた長い長い歴史があって、それが禁じられたのはたかだかこの 100年なわけでしょう? だから私たちは、すべての人に、大麻は私たちの歴史、文化、医療の一部だったのだということを思い出してもらう、という使命を堅く信じているんです。データサイエンスや情報を使って、みんなに思い出してほしいの——どうやったらこれを私たちの文明に、文化の中に、もう一度取り戻せるのかということを。科学やデータを使って、ステレオタイプや嘘を暴きましょう、だって大麻草には消費者にとって本当に益になるものがあるんですから。それは政策について話すことであり、規制について話すことであり、消費者と対話することでもある。私はそのことにとても情熱を感じています。
GZJ:毎年日本にお帰りになるなら、日本人の大麻に対する考え方と、カナダやアメリカの考え方との間には大きな差があってそれがどんどん大きくなっているということはご存知だと思いますが、日本の大麻に関する規制についてはどうお考えですか?
YM:とても厳しく規制されていることは知っていますけど、もっと詳しく知りたいわ。大麻を手に入れるのはどれくらい難しいの?
GZJ:合法的には一切手に入りません。今手に入るのはヘンプ由来の CBD だけで、それもとても奇妙な縛りがあります。
YM:医療大麻を求める運動がありますよね。てんかんのお子さんのご両親が出てらしたニューヨーク・タイムズ紙の記事を読みました。アメリカで医療大麻を推進したのは誰だったかと言えば、てんかんの子どもを持つ親御さんたちであり、PTSD に苦しむ退役軍人でしたよね。そういう、医療大麻から直接恩恵を受けている人たち自らが直接主張することが必要ですね。
GZJ:あの記事では私もインタビューを受けたんですが、登場したてんかんのお子さんは私たちが展開している「みどりのわ」というプログラムに参加されています。小児てんかんの患者さんに CBD を原価で提供するプログラムです。日本では CBD 製品がとても高くて、治療に必要な用量を摂るのは経済的にとても負担ですからね。アメリカで起きたことをお手本にして、私たちもこれを一つの突破口にしたいと思っているんです。
YM:日本には「権力者に異議を唱える」という文化がないでしょう? それはとても難しいことですよね、日本人は権威を大事にするから。そしてそれはおいそれと変わるものではありません。でも同時に、日本も含めて世界はみなつながっているわよね、Twitter だの Instagram だので。もし私にてんかんの子どもがいて、効果のある治療法があるとしたら、たとえ政府がそれを手に入れるのを邪魔しても、私は何としてでも子どもを助けます。そういうことだと思うの。そしてそこでまた私たちの使命である教育が大事になるんです、そういう親御さんたちや消費者に情報を届けることがね。
世界が変われば、それぞれの国は難しい立場に置かれますよね、いつまで禁止を続けるのか、と。私自身は日本を見ていて勇気づけられているんです、大麻以外のことでどんどん変化が起きているから——進歩的な考え方が現れているでしょう? たとえば女性の地位。女性の権利を求める動きが起こっていますよね? 子どものいる女性も働けるべきだということとか。大事なのは、どうやってこの進歩的な動きを止めずに進み続けられるかということですね。
GZJ:Leafly は医療大麻についてはどういう立ち位置にいるんでしょう、特に医療大麻に関連したプロジェクトなどはありますか?
YM:もちろん私たちは医療的なアドバイスはしません。ユーザーには、大麻を医療目的で使うなら医師と相談してくださいと言っています。私たちは医師ではありませんからね。でも Leafly には医療大麻専門のディスペンサリーもたくさん掲載されていて、Leafly のサイトに製品(品種)を探しに来る人とその人が住んでいる地域の医療大麻ディスペンサリーをつなぐ役割を果たしています。たとえばアーカンソー州は医療大麻しか合法じゃないけど、アーカンソー州から来るユーザーはたくさんいて、アーカンソー州のディスペンサリーもたくさん掲載されています。フロリダ州もそうです。
GZJ:Leafly には医師のデータベースもありますか?
YM:ありますよ。ショップやブランドと消費者をつなぐのがメインなので多くはありませんが。アメリカではまだ約 20 の州は医療大麻しか合法ではありませんから、医療大麻患者として認定してくれる医師にアクセスできる必要がありますからね。
でも重要なのは、医療目的で大麻を使いたい人が大麻について理解するのを助けることだと思うんです。大麻とは、カンナビノイドとは、THC とか CBD とは何なのか、どんな研究が行われているのか、ということをね。私たちは、この 100年で大麻についての基本的な理解を失ってしまったわけでしょう? 使い方を忘れてしまったのよね。だからみんなにその情報を伝えることが大事だと思います、こうやって使えばあなたの役に立つんですよ、とね。
社会的公正さの重要性
GZJ:Last Prisoner Project(LPP)を積極的に支援していると伺いました。それについてお聞かせ願えますか?
Last Prisoner Project とは:大麻関連で収監されている受刑囚の釈放を支援するために 2019年に設立された非営利団体。
YM:これはアメリカ特有なのかもしれないけれど——日本にこれと似た状況があるかどうかはわかりませんが、アメリカでは、大麻の使用率は人種にかかわらず同じなんです。白人だろうが黒人だろうがアジア人だろうが関係なく、その人口における使用率は同じくらいなのに、受刑率——つまり逮捕されて起訴される率——は、黒人やラテン系アメリカ人の方がずっと高いんです。それから麻薬撲滅戦争があって、3度罪を犯したらアウトという決まりがあって、大麻関連の罪で終身刑に処せられている人がいるわけです、大麻は今では合法なのに。それが問題の一つ。
それから、大麻の合法化によって新しい市場が生まれているのだけれど、市場に参入するための融資が受けられないという問題。黒人やラテン系の人が起業したくても融資を受けられる確率はずっと低いんです、大麻での起業は特にね。だから元手がない。つまり、大麻の合法市場で儲けている人というのは大麻で逮捕された人たちではないわけです。それって根本的に不公平でしょう? あるコミュニティが大麻禁止政策の代償を払い、別のコミュニティが利益を得ているというのは。合法大麻市場を公正なものにしたい、というのは、この問題を修正したいということです。でもそれにはまず、LPP がしていること、つまり収監されている人を刑務所から解放しなければね。もはや違法ではないことで服役するなんておかしい。そうして刑務所から解放したら、今度はどうやって彼らが人生を立て直すのを助けることができるのか、と考えることができます。この大きな産業を作っていくなかで、どうやって彼らがその経済的恩恵に与れるようにするか、ということをね。
GZJ:Leafly は実際にはどういう形で LPP に関与しているんですか?
YM:まず金銭面での支援ですね、たとえばファンドレイジングをして寄付したり。Leafly の社員が LPP に寄付したら同額を Leafly としても寄付します。また LPP はロビーイング活動もしていますから、そのための教育コンテンツ制作にも協力しています。
GZJ:LPP の活動は成果を上げていると思いますか?
YM:とても効果的に活動していると思います。彼らは素晴らしいパートナーシップのやり方を持っていて、各州ごとに活動家とつながって助けが必要な人を特定するんです。大麻業界全体からの絶大なサポートもあります。スティーブ(ディアンジェロ)みたいな有名人も支援しているし、色々な組織が、彼らの活動は大麻業界を正しく構築するために必要であるということを認識しています。でも、LPP はメディアにたくさん取り上げられているけど、他にもその地域々々で素晴らしい活動をしている組織はたくさんあるんです。だから LPP だけがこれをしているということではないの。私は同じ目的で素晴らしい活動をしている地域の活動家たちにもお会いしたことがあります。だからそうやって現場で良い仕事をしている人を見つけて援助したいと思っています。
聡明で、CEO という肩書きを持ちながらもとても気さくな Yoko Miyashita さん。弁護士というバックグラウンドがあるからか、大麻業界の社会的公正さを求める活動に強い関心を寄せていらっしゃるようでした。上場企業の、そしてアメリカの大麻業界の舵取りに、今後ますますのご活躍を期待したいと思います。
インタビュー・文責:三木直子(国際基督教大学教養学部語学科卒。翻訳家。2011年に『マリファナはなぜ非合法なのか?』の翻訳を手がけて以来医療大麻に関する啓蒙活動を始め、海外の医療大麻に関する取材と情報発信を続けている。GREEN ZONE JAPAN 共同創設者、プログラム・ディレクター。)
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