CBDの主要な医療用途は、痛み、不安、不眠、うつであることが複数の調査の結果、明らかになっていますが、このうち痛み以外の精神症状に対しては、小規模な試験が数件行われているのみで、大規模な比較検討試験はデザインされていません。
(これは大規模臨床試験というのが主に製薬会社が製品開発・保険承認を目的に行うものであり、現時点でCBDを抗うつ薬や抗不安薬として処方箋医薬品にしようという動きが認められないためと考えられます。)
そのため、不安や不眠に対するCBDの有効性を評価する上では、CBDの使用者に対してアンケートなどの調査を行う後ろ向き研究という手法が、現実的に有効な評価法になります。今回は2019年にコロラド大学精神科のスコット・シャノン医師による報告を紹介します。(シャノン医師はUSの統合医療系学会の会長を遍歴し、CBD以外にもMDMAを用いた精神療法の大三相試験の責任医師でもあります。)
調査対象はコロラド州フォートコリンズに位置する“ホールネスセンター“という統合医療にフォーカスした精神科クリニックに加療する不安障害患者47名、不眠患者25名の合計72名でした。(両者はオーバーラップしており不眠症患者も不安を抱え、不安症の患者も不眠に悩んでいました)
患者は通常の精神療法や薬物療法に併用して、CBDを使用していました。用量としてはCBD25 mgを含有するカプセルを1日1粒、不安を主訴とする場合は朝食後、不眠を主訴とする場合は夕食後に摂取していました。使用されたのはラスベガスに本拠を置くCV Science社の製品でした。
患者は月に一度の外来受診の際に、不安もしくは不眠のスコア(ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)/ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI))を用いて、病状の評価が行われました。
HAM-Aは14項目からなるスコア0~56点で患者の不安を評価し、25点以上は深刻な不安に苛まれていると判断されます。
PSQIは0~21点の睡眠の質に関する評価法で、5点以上の方は睡眠の質が低いと判断されます。
CBD服用開始前のスコアは、不安症患者のグループではHAM-A:23.87/56点、PSQI:10.98/21点、不眠患者のグループでHAM-A:22.18/56点、PSQI: 13.08/21点でした。
CBD導入から1ヶ月後には、不安症患者のグループではHAM-A:18.02/56点、PSQI:8.88/21点、不眠患者のグループでHAM-A:17.82/56点、PSQI:10.64/21点まで改善を得ていました。最終的に3ヶ月後のフォローアップ時には、不安症患者のグループではHAM-A:16.36/56点、PSQI:9.25/21点、不眠患者のグループでHAM-A:13.78/56点、PSQI:9.33/21点でした。
服用開始から1ヶ月の時点で、不安に関しては79.2%、不眠に関しては66.7%のユーザーが改善を自覚していました。一方で、不安に関しては15.3%、不眠に関しては25.0%のユーザーが悪化を自覚していました。3ヶ月の間に副作用で服薬中止したのは3名でした。
これらの結果から、不安・不眠の双方に対して、CBDが一定の効果を有する可能性が示されました。不眠に関しては比較的個体差が大きいというのは、逆に眠れなくなるという一部の使用者の声と一致する結果と考えられます。
本調査では、プラセボを用いた対照群の設定は行われていないため、これは薬理効果にプラセボ効果を含めた有効性ということになります。特に統合医療の機関であり、標準的な薬物療法を忌避する層が集まるクリニックであるという背景を考慮すると、特に大きなプラセボ効果が働いている可能性は否定できません。また本調査に参加した患者は、カウンセリングやその他の統合医療も受けているため、CBD単体でなくこれらの総体として機能した可能性も考えられます。
このような限界点が認められるものの、25 mgという比較的少量のCBDで不安や不眠といった頻度の高い症状に有効性が示されたことは価値のある結果と言えるでしょう。
執筆:正高佑志(Green Zone Japan代表理事 医師)
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