スポーツ科学が進化しトレーニング技術が確立されていく中で、練習後のリカバリー方法にも注目が集まっています。
一般的に疲労が蓄積すると痛み、脱力、炎症、疲労感、集中力低下などの症状が出現し、パフォーマンスは低下します。食事や睡眠などの質を高めることで、疲労回復効率が上昇すれば、アスリートはより良い状態でパフォーマンスし、より高い密度でトレーニングを積むことが可能となります。
アスリートの食事と言えば、過去には鶏胸肉などのタンパク質をローディングするイメージがありましたが、近年、抗酸化、抗炎症効果を期待し植物由来製品を摂取することの有効性が認識されつつあります。数々のカンナビノイドのうち、CBDだけは世界ドーピング機構(WADA)のカテゴリーから一早く除外されているため、アスリートも利用が可能となっています。
特にコンタクトスポーツの選手の間では、CBD使用は支持されており、イギリスのラグビーリーグでは選手の26%がCBDを使用したことがあるという調査結果が得られています。
CBDが人体に作用するメカニズムは大変に複雑で、その全貌は明らかになっていませんが、以下のような機序でスポーツリカバリーを促進すると考えられています。
1:抗炎症作用
CBDには抗炎症作用があることが知られており、身体を酷使した際に発生する炎症や酸化ストレスを抑制します。実際に1993年に報告された研究では、CBD 300mgを摂取したところ、人体が合成する糖質ステロイドであるコルチゾール(※:抗炎症剤として処方されるステロイドに類似した物質。ドーピングに使用されるアナボリックステロイドとは異なる)の合成が促進されていました。CBDは炎症を軽減されることで、リカバリーを促進すると考えられています。
2:鎮痛作用
CBDの用途のうち、最も多いのが慢性の痛みです。CBDが鎮痛カスケードにおいてどのような役割を果たしているかは明らかになっていませんが、炎症性疼痛、神経因性疼痛などの様々な病態に対して効果があることが経験的に知られています。言うまでもなく、痛みの軽減はリカバリーにおいて重要な要素です。
3:睡眠改善
疲労回復には質の高い睡眠が重要であり、その点においてもCBDは有用と考えられています。特に夜間にプレーすることを余儀なくされるプロスポーツ選手において、不眠は考えられているよりも一般的で深刻な問題のようです。CBDと睡眠障害については、こちらの記事もご参照ください。
4:精神作用・リラックス効果
極度のストレスがかかり、連日の集中を要求されるプロスポーツの世界では、緊張とリラックスの切り替えは高いパフォーマンスを維持する上で重要な要素となります。CBDの用途に関する調査では、リラックスも常に上位に位置しています。我々が行った日本のユーザーを対象とした調査でも、リラックス目的の使用は最も多い用途でした。
また大麻に関しては、オリンピック女子100m走の米国代表に内定していたシャカリ・リチャードソン選手が母の死を乗り越えるために大麻の精神作用を活用していたことは、彼女のドーピング違反失格を機に広く知られるようになりました。
このようにして、多岐にわたる理由からCBDはアスリートの暮らしの中へ採用されているようですが、現時点ではリスクもあることは周知されるべきでしょう。
2022年1月現在、CBD以外のカンナビノイドはドーピング違反に該当します。そのため、製品に残留するごく微量のカンナビノイドが検出され、問題となる可能性があり、実際にボクシングの井岡選手がトラブルに巻き込まれた例があります。ドーピング検査がある競技のプロ選手に対しては、現時点では慎重な姿勢を取ることを推奨せざるを得ません。
先述のリチャードソン選手の一例が発端となり、WADAではカンナビノイドに対する姿勢を改める方針が検討されているようです。日本国内のスポーツ団体も、国際規範に沿った柔軟な姿勢を取ることが、日本の競技者をサポートすることになると自覚すべきです。
参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34413793/
スポーツと大麻・CBDについては以下の過去記事もご一読ください。
執筆:正高佑志(Green Zone Japan代表理事・医師)
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