かゆみは皮膚科領域における最も一般的な主訴であり、受診患者の30.9~36.2%が慢性のかゆみに悩んでいるとされています。一般的な治療として、局所麻酔薬、抗ヒスタミン薬、各種ステロイド剤などが併用されますが、全てのかゆみに効く万能薬は存在せず、多くの患者さんが従来の治療とは異なる治療法を必要としています。
昨今の研究により慢性のかゆみに対しても、エンドカンナビノイドシステムは治療のターゲットとなることが期待されています。
機序として慢性のかゆみの背景には慢性炎症が介在しており、カンナビノイドは抗炎症作用を経由してかゆみの原因を抑制することが期待されています。また脊髄神経の神経節に働きかけることで、かゆみの信号が過剰に伝わることを抑制してくれる可能性も考えられています。この抹消と中枢にダブルで作用するという作用機序は、慢性疼痛や神経痛に対するメカニズムと共通するものです。
実際に人を対象とした有効性の報告も、2000年以降、9報が認められます。
最初の報告は2002年、マイアミ大学の研究チームによるもので、慢性の胆汁鬱滞による難治性のかゆみに苦しむ3名がドロナビノール(Δ9-THC)5mg/dayを使用したところ、全例で著しい症状の改善が認められたというものです。
比較的研究が進んでいるのは内因性カンナビノイドの一種である、パルミトイルエタノールアミド(PEA)を配合したクリームを利用した治験で、2008年には2456名のアトピー患者を対象とした臨床研究が行われ、およそ60%の患者で症状改善が確認されました。
さらに2021年4月には、ジョンス・ホプキンス大学病院の皮膚科チームがJama Dermatologyに慢性のかゆみに対して医療大麻が奏功した症例を報告しています。
(筆頭著者のRohはアジア系の女性研究者のようです。)
患者は60代の黒人女性で、原発性硬化性胆管炎(PSC)を原疾患とするアミロイド苔癬による慢性のかゆみに10年以上悩まされていました。ジョンス・ホプキンスかゆみセンターにて投薬や光線療法など、あらゆる治療を試みましたが、改善は得られませんでした。そこで彼女は以下の2種類の医療大麻を週に2回の頻度で使用開始しました。
①THC18%のインディカ種のバッズを喫煙
②THC:CBN=1:1のティンクチャー(3330μg/ml)を適量舌下投与
初めて大麻を使用して10分後、彼女のかゆみは10点/10点満点から4点/10点満点まで改善し、その後継続して使用することで、16ヶ月時点以降は完全に消失しました。症状の改善に伴い、生活の質も著しく上昇し、使用開始時に17点だった重症度が20ヶ月時点で1点まで改善しています。劇的な効果があったと言って差し支えないでしょう。
掲載されたジャーナルは由緒正しい医学誌で、雑誌の持つインパクトファクターは10点を超えています。おそらく日本中の大学病院の皮膚科で、同誌の抄読会が行われているはずです。日本の皮膚科医にも正しい情報が伝わることを願っています。
執筆:正高佑志(医師・一般社団法人Green Zone Japan代表理事)
コメントを残す