ニュージーランドの大麻合法化法案は2020年の国民投票において僅差で否決されましたが(賛成46%:反対53%)、CBD製品(THC:2.0%以下)は2017年から医師が処方可能となっています。昨今では一部のTHCを含有する乾燥大麻も認可されているようです。
参考:NZの品質基準を満たした医療大麻製品一覧
2017年12月〜2018年12月にかけて、オークランドの医療大麻クリニック(Cannabis Care)で、CBD処方を希望し受診した400名の患者を対象とした観察研究の結果は興味深いものです。
こちらのクリニックではカナダのTilray社の製造販売するCBD100という製品が処方されました。これは10%のオイル25ml製剤(2500mg)で、金額は300米ドル(2023年1月時点で38,000円)でした。CBDはニュージーランドの医薬品スケジュールには含まれていないため100%自己負担で購入されました。(加えて患者には初診料150ドル、再診料75ドルが請求されました。)
クリニックに受診した患者は主訴毎に①非がん性慢性疼痛疾患、②神経疾患、③精神症状、④がん疾患の4領域に区分されました。
患者はCBD服薬開始前のベースラインと使用開始3週間後に生活の質(QOL)のスコアの一種であるEQ-5D-5L記述式(1移動、2身の回りの管理、3日常生活、4痛み、5不安・うつ、の5領域についての総合スコアでスコアが高いほどQOLが低い)とEQ-VAS(100点満点で高得点ほどQOLが高い)の二種類のスコアで評価されました。また再診時にCBDに対する満足度とCBD摂取の詳細について可能な範囲で記録されました。
○どのような主訴で受診したか?
上記の疾患分類で最も多かったのはがん以外の疼痛疾患(45.6%)で、内訳としては線維筋痛症、変形性関節症、関節リウマチ、神経痛、偏頭痛、潰瘍性大腸炎に伴う痛み、その他の原因不明の疼痛などが含まれました。
次に多かったのががん関連の受診(23.2%)で、症状としては痛み、吐き気、食欲不振、精神的苦痛、放射線や化学療法に伴う副作用などが認められました。
精神症状(16.1%)の内訳は、不安障害、うつ病、PTSD、不眠などでした。
神経疾患(15.1%)にはパーキンソン病、多発性硬化症、てんかん、自閉症、ALS、多系統萎縮症、振戦などが含まれました。
○治療成果について
CBD処方を受けた397名のうち、110名がQOLスコアの調査に協力しました。
①非がん性疼痛患者では、移動、日常生活、痛み、不安抑うつの4領域でQOLスコアの有意な改善を認めました。
②神経疾患の患者群では、5領域のいずれにおいても有意なスコアの改善を認めませんでした。
③精神症状を伴う患者層では日常生活、痛み、不安抑うつの改善を認めました。
④がん患者では痛みの改善を認めました。
一方のEQ-Vasスコアでは全ての患者群で上昇が認められ、平均値では13.6ポイントの改善でした。
CBDに対する満足度調査では、協力した250名のうち70%が満足、30%が利益はないと答えました。
○CBD摂取量について
医師は少なくとも100mg/dayの摂取を推奨していましたが、実際の使用量は40~300 mg/dayと大きなばらつきを認めました。そもそも投与量について回答できたのは回答者の43%に過ぎませんでした。CBDの摂取量と患者が報告したCBDの有益性については有意な相関は認められませんでした。
○この研究からわかること
米国や欧州でのCBD処方適応は現時点では難治てんかんに限られていますが、本調査では特に精神疾患や非がん性疼痛の領域でも有意なQOLの改善がもたらされることが示されました。これは今後の保険診療範囲拡大を期待させる結果です。
一方で回答に協力した患者の30%が利益が得られなかったと答えたことは重要です。回答しなかった層ではより有効性が低い可能性が高いでしょうし、CBDは万人に対して恩恵をもたらすものではないことを意識しておく必要があります。
また摂取量と満足度に有意差がなかったことは注目に値するでしょう。これは多ければ多いほど良い訳ではないことを示しており、どれくらい摂取すればいいかは個人差が大きいことを再確認させてくれるものです。
執筆:正高佑志(医師・一般社団法人Green Zone Japan代表理事)
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