境界性パーソナリティ障害と医療大麻

2023.03.19 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan
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境界性パーソナリティ障害と医療大麻
2023.03.19 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan

・境界性パーソナリティ障害(ボーダーライン:BPD)とは

人の個性は様々ですが、極端に偏った性格により自分や周囲の人々が著しい苦痛や不利益を被るようになると、現代医学では”パーソナリティ障害”という精神疾患と診断されることになります。それらの中で最も広く認知されているのが境界性パーソナリティー障害(ボーダーライン・パーソナリティ障害:BPD)です。
BPDの患者さんは感情のコントロールが困難で、自分自身や他人との関係において激しい波があり、しばしば不安、自己否定感、孤独感、自傷行為などを引き起こします。人口の2%ほどを占め、特に若い女性に多いという特徴があるようです。

・BPDの原因とメカニズム

BPDの発症には遺伝と環境の双方の影響があると考えられていますが、確定的な原因は明らかになっていません。病理学的なメカニズムとしては、脳の恐怖を司る部位である扁桃体が過活動を呈していることが明らかになっています。また慢性の微小な神経炎症と抗酸化経路の異常が関与している可能性が指摘されています。

・BPDの合併症と治療法

BPDの患者さんにはうつ病、パニック障害、PTSD、依存症、摂食障害などの様々な精神疾患が高率に合併します。また自殺率が高いことも知られています。
これらの合併症や症状の対処のために抗うつ薬、抗不安薬などが処方されることがありますが、BPD自体の薬物療法として有効性が確立したものは存在せず、治療はカウンセリングや認知行動療法に限られています。

・カンナビノイド医療の可能性

病態生理として上記で述べた扁桃体の過活動と微小な神経炎症はいずれも、エンドカンナビノイドシステムへと働きかけることで制御できる可能性があると理論上は考えられます。実際に2022年にはイギリスの研究チームが、BPD患者に医療大麻を投与した7例についてのケースシリーズを報告しています。

この論文はイギリスに本拠を置く医療大麻クリニック(Zenenia Clinics)のイギリス支店とコロンビア支店に通院し医療大麻治療を継続している7名のBPD患者を追跡したものです。患者が使用したのは乾燥大麻もしくはティンクチャーで、Kihiron Life Scienceという会社が製造する製品のようです。どちらもTHC優位、CBD優位、バランス型の三種類から選択されました。
病状の変化については、主治医と本人の両者がそれぞれ臨床全般改善度(CGI-I)、Patient Global Impression Change scale(PGIC)というスコアで評価を行いました。主治医が評価するCGI-Iでは1~7の7段階の評価がなされ、1が”劇的に改善した”、7が”劇的に悪化した”ことを意味します。また患者が自己評価するPGICでは1が”変化がない・悪化した”で7が”かなりの改善が認められた”ということになります。

これら7名の患者は5名が女性、2名が男性で、1名(46才)を除いて全員が20代でした。5名が現時点でも抗うつ薬や抗精神病薬を併用していました。患者のうち、4名がTHC優位の大麻を、1名がTHC優位とバランス型の併用、1名がバランス型、1名がCBD優位型の大麻を使用して一ヶ月の治療後に評価を行ったところ、7名のうち6名で著しい改善が認められました。

上記の論文は小規模なケースシリーズではありますが、BPDに対する大麻の有効性を示した初めての学術報告であり、そのほかの治療法が乏しいことを考えると、今後の可能性を期待させる内容と言えるでしょう。

参考:https://tokyo-brain.clinic/psychiatric-illness/personality-disorder/1119

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

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