老人ホームにおける認知症患者への医療大麻の成果

2023.04.12 | 大麻・CBDの科学 海外動向 病気・症状別 | by greenzonejapan
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老人ホームにおける認知症患者への医療大麻の成果
2023.04.12 | 大麻・CBDの科学 海外動向 病気・症状別 | by greenzonejapan

様々な病気や症状に対して効果があるという医療大麻の特性は、多くの疾患を合併する高齢者において最も高い効果を発揮します。実際に“老年医学“の領域では、緩和ケア領域、てんかん領域などと並んで、医療大麻の学術報告が活発に行われています。
これまでにも高齢者医療と医療大麻については以下の記事を執筆してきました。

高齢者に広がる大麻使用

医療大麻と認知症

CBDはパーキンソン病患者の役に立つか?

今回はスイスの老人ホームで認知症患者に対して医療大麻を使用した成果について紹介したいと思います。
2022年9月にFrontiers in Aging Neuroscienceに掲載された論文はスイスのジェネーヴ大学の研究チームによる報告になります。
スイスでは2022年8月1日に医療大麻が合法化され、他国への大麻製品の輸出も可能となっています。

本調査では老人ホームに入所中の19名の認知症患者(平均年齢81歳)に医療大麻(THC/CBDを含有)を投与し平均10ヶ月(5~13ヶ月)という長期間、前向きに観察を行いました。

使用されたのはTHC1%+CBD2%(それぞれ10 mg/mg, 20 mg/ml)のオイル製剤で、一日に3回に分けて投与されました。(投与はオイルをフルーツゼリーやデザートチーズに垂らして行われました)対象患者は全例がMMSEで10/30点以下(平均1.4点)の高度な認知症を罹患し、平均で7種類の薬剤を内服していました。

有効性の評価は、訓練を受けた看護師により以下の5種類のスコアを用いて行われました。

①CMAI (Cohen-Mansfield Agitation Inventory):認知症の周辺症状を7段階で評価するスコア
②NPI(Neuropsychiatric Inventory):0~120点で認知症周辺症状を評価し、スコアが高いほど重症度が高いことを示す
③UPDRS:パーキンソン病の重症度スコア 0~4点でスコアが高いほど重症
④MIDA(the Most Frequent Incapacitating Daily Activities ):スタッフによるVAS 0~10点で、日常生活動作(着替え、排泄など)を評価 高いほど状態が悪い
⑤MIBT(the Most Incapacitating behavioral trouble):スタッフによるVAS 0~10点で、問題行動について評価 高いほど状態が悪い

また採血によって、大麻製剤の投与が以下の6種類の薬物代謝酵素の活性に与える影響について評価を行いました。

・CYP1A2
・CYP2B6
・CYP2C9
・CYP2C19
・CYP2D6
・CYP3A4/5

観察終了時点での最終的な一日投与量の平均はTHC: 12.4mg/day、CBD: 24.8 mg/dayでした。19名のうち2名は5ヶ月投与した時点で効果が乏しいとの家族の判断で中止となりましたが、副作用で中止に至った患者はいませんでした。

○認知症への効果

①問題行動の指標であるCMAIスコアは平均85.2から53.7へと軽減しました。
②同じくNPIスコアでは71.6から33.7へと問題行動の改善が認められました。
③UPDRSスコアでは3.3から2.1へと改善が認められました。
④日常生活動作の指標であるMIDAスコアでは9.6から5.0への改善が認められました。
⑤問題行動の評価スケールであるMIBTでは10.0から4.7へと改善が認められました。

9名の患者で1剤の処方が中止可能となりました。

○薬物代謝酵素への影響

測定した6種類の酵素のうち、CYPの1A2とCYP2C19の活性低下が確認されました。

○まとめ

老人ホームに入所中の重度認知症患者に対して、少量の医療大麻オイルを使用したところ、問題行動の著しい改善と日常生活動作の改善が認められました。投与された量はTHCが12mg/day、CBD24mg/dayと少量であり副作用は認められませんでした。1年ほどの実生活の追跡で効果が確認されたことには大きな意義があると言えるでしょう。超高齢化社会である日本においても介護疲れや介護殺人予防対策として、このような手段を積極的に導入検討する必要があると思われます。

また本研究では薬物代謝への影響について重要な知見が示されました。CYP1A2で代謝される薬剤には抗うつ薬(デュロキセチン)、抗精神病薬(オランザピン、クエチアピン)などが、CYP2C19で代謝される薬剤には抗血小板薬(クロピドグレル)などがあります。これらの薬剤との併用の際には血中濃度や効果に影響を与える可能性があることへの配慮が必要です。従来CBDが影響を与えるとされているCYP3A4に関しては、本研究では明らかな影響は認められませんでした。これについては更なる大規模な再評価が必要と思われます。

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

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