CBDの認知度が高まるにつれて、高齢者もCBD製品を手に取る機会が増えてきたように感じられます。複数の病気や症状を抱える高齢者にとって、様々な症状に効果が期待されるカンナビノイドは、上手に活用すると大きな救いになってくれるでしょう。一方で健康な方と比較し、使用のリスクも高まることには注意が必要です。
特に懸念されるのが、その他の処方薬との薬物相互作用の問題です。これまでの研究の結果、CBDはCYP2C19、CYP3A4、CYP1A2という代謝酵素で分解される薬剤と併用された際に、薬剤の血中濃度を高める可能性があることが知られています。
これらの薬剤の中で効きすぎると特に問題となるのが、脳梗塞や心筋梗塞の再発を予防するために処方される抗血小板薬や抗凝固薬(通称、“血液サラサラ“の薬)です。具体的にはクロピドグレル、シロスタゾール、ワーファリン、イグザレルト(リバロキサバン)、エリキュース(アピキサバン)、などが該当します。
アメリカコンサルタント薬剤師協会が発行する、“The Senior Care Pharmacist”という学術誌の2023年4月号に“老年薬物療法症例シリーズ:抗血小板薬とカンナビジオールとの薬物相互作用の可能性-P2Y12阻害薬を中心に“という症例報告が掲載されました。
症例は76歳の男性で、心筋梗塞を罹患後に再発予防に抗血小板薬であるアスピリンとクロピドグレルが処方開始となった状態で、地域のリハビリ病院に転院となりました。転院時に患者から、膝の痛みに対してCBDオイルを1日3回使用していること、入院後もCBDの服薬を続けたい旨の申し出がありました。(CBDの使用量は不明)
クロピドグレルとCBDに相互作用のリスクがあるため、出血事故を予防するために病院の薬剤師はCBDの代わりにアセトアミノフェンという一般的な鎮痛薬を服用するように指導したという報告です。
この指導内容については賛否両論があるでしょうが、高齢者を対象にCBD製品を推奨する際には、このようなリスクを想定する必要があることは間違いありません。
CBDと“血液サラサラ“は併用してはいけないのか?という問題は、掘り下げて考える価値のあるテーマです。
まず第一にCBDの摂取量や摂取方法に関して、バームやクリームなどの塗布薬は全身の血中には移行しないため、薬物相互作用の心配はありません。また昭和大学の薬学部の研究チームが2019年10月の臨床カンナビノイド学会で発表した内容によると、2mg/kg/day以下の少量投与では薬物相互作用は生じない可能性が高いと考えられます。
つまり成人で体重50kgの場合、1日に100mg以下のCBD摂取の場合はあまり心配はいらないのではないかということになります。
次に併用する薬剤の種類に関してですが、“血液サラサラ“は作用機序によって抗血小板薬と抗凝固薬に分類され、それぞれ止血における別のメカニズムを阻害します。
このうち、どちらかというと厄介なのは、抗凝固薬が効きすぎた場合の出血事故です。血小板の作用は圧迫で代償することができますので、凝固因子が作用するまでの時間、一生懸命圧迫していれば止血が可能ですが抗凝固薬が効きすぎた状態ではどれだけ圧迫しても止血が得られません。
今回の症例報告で取り上げられたクロピドグレルに関しては、個人的にはCBDとの併用は禁忌とまでは思いません。(注意が必要なのは間違いありませんが)一方で、抗凝固薬であるワーファリンと併用する場合は、採血による効果のモニタリング(PT-INR)が必須だと思いますし、イグザレルト、エリキュースに関しては、原則的に併用すべきではないと考えています。
現実的な対応として、CBDと併用するなら抗血小板薬であればアスピリンを、抗凝固薬であればCYP代謝への影響がないとされるプラザキサ(ダビガトラン)を第一選択とするのが望ましいでしょう。またワーファリンと併用する場合はPT-INRを採血でモニタリングすることを強く推奨します。
執筆:正高佑志(Green Zone Japan代表理事、医師)
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