この定義をまさにそのまま具現化した医療機関、AIMS Instituteが、私が1年の半分を過ごすアメリカのシアトルにあります。AIMSは「Advanced Integrated Medical Science(先進的統合医療科学)」の頭文字をとったもので、その名の通り、先進的な統合医療で定評のあるクリニックです。
AIMS の開業は 2018年と比較的最近ですが、共同ディレクターであるリアナ・スタンディッシュ博士とスニル・アガルワル博士をはじめとし、経験豊富な数多くの医師・セラピストが、さまざまな補完(代替)療法を駆使して「患者を総合的に」診ています。
統合医療の特徴を一言で言えば、それはある「疾患」や「症状」を治療するのではなく、患者という「人間」を全人的に(ホリスティックに)診ることだと言えるのではないかと思います。
一例を挙げましょう。
AIMS には多くのがん患者が訪れます。患者には標準治療のオンコロジスト(がん専門医)が主治医として付いていることが多く、AIMS では、その医師と連携を取りながら、患者の治療をさまざまな形でサポートします。たとえば、がん性の疼痛をやわらげるための疼痛治療、食事療法、薬草やハーブを使った植物療法、ボディワーク、さらには病気からくる不安やうつに対処するために、心理カウンセリングや、ケタミンという幻覚剤を使った心理療法も行います。肉体的な治療にとどまらず、ボディ・マインド・スピリットのすべてを「癒やす」ことを目的とするこうしたアプローチは、「インテグラティブ・オンコロジー(がん統合医療)」と呼ばれ、近年、徐々に注目が高まっています。クリニックでは毎週定期的にスタッフによる全体ミーティングが行われ、患者の治療の進展を確認しつつ、次はこうしたらどうだろう、と意見を交換しながら治療を進めていきます。いわば、治療のためのチームができるわけです。
がん患者の他にも、慢性疼痛や免疫性疾患、うつ病や PTSD、依存症、トラウマなどの精神疾患まで、標準治療が奏効しない、あるいは効果的な治療法が存在しないさまざまな「病」に、さまざまな角度からのアプローチが可能で、それらを総合することで「全人的」な治療が行われ、患者の「生活の質」を高めることができるのです。AIMS ではまた、いくつかのリサーチも行っています。一つは「Aims Cancer Outcome Study(ACOS)」と言って、がんの標準治療に各種の補完療法を併用することが実際に患者の予後にどのように影響するかを追跡調査するもの。もう一つは「Aims Medical Outcome Study(AMOS)」で、がん患者に限らず、広く各種の疾患や患者に対する AIMS での補完療法の効果を測ろうとするものです。こうしたリサーチを行うことで、標準医療と補完医療を併用することの医学的効果を科学的に評価しようとしているのです。
「先進的」という名前にあるとおり、AIMS では、標準治療を行う通常の病院ではまだ受けられない、新しい治療も受けられます。たとえば、がんに対する治療効果があることがわかっているけれども、経口摂取したのではバイオアベイラビリティが低く効果が出にくいクルクミンの点滴投与による治療法の開発 [1] もその一つですし、近年アメリカで医療利用の研究が進む、幻覚剤を使った心理療法(psychedelic-assisted psychotherapy)にも積極的に取り組んでいます。前述したケタミン療法(Ketamin Assisted Psychotherapy, 略してKAP)がこれにあたります。また、共同ディレクターの一人であるスタンディッシュ博士は、アメリカで初めてアヤワスカ(アマゾン北西部で伝統的に用いられている幻覚剤。ペルーの国家文化遺産)の臨床試験を行う許可をアメリカ政府から与えられた研究者であり、2023年の実施を目指して準備が進められていますし、もう一人の共同ディレクターであるアガルワル博士は、末期がんの患者がシロシビン(マジックマッシュルームと一般に称されるキノコに含有される幻覚成分)を使う権利を求め、患者とともに原告となって、シロシビンの提供を拒むDEA(米国麻薬取締局)を相手取った訴訟を起こし、裁判の行方が全米で注目されています。
また AIMS 創設当初から AIMS と連携している SMJ Consulting のメアリー・ブラウンは医療大麻のドージングのスペシャリストで、医療大麻の患者に用量のアドバイスを行っており、日本の患者に対しても、日本で合法的に手に入るカンナビノイド、CBD と CBG を使った治療のコンサルテーションを、私が理事を務める一般社団法人 Green Zone Japan を通して提供しています。
いかがでしょうか。冒頭でご紹介した、厚生労働省による統合医療の定義「近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせて更にQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させる医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」そのままではないでしょうか。今回の取材で、何人ものプラクティショナーにお話を伺って感じたのは、患者を一人の人格として総合的に捉え、病気をあらゆる角度から見て、さまざまな方法を駆使して根本的な治癒を目指すことが重要である、という認識をすべてのプラクティショナーが共有している、ということでした。
日本にこのようなクリニックが存在するのか、私は寡聞にして存じませんが、あったらいいな、と心から思います。
文責:三木直子(国際基督教大学教養学部語学科卒。翻訳家。2011年に『マリファナはなぜ非合法なのか?』の翻訳を手がけて以来医療大麻に関する啓蒙活動を始め、海外の医療大麻に関する取材と情報発信を続けている。GREEN ZONE JAPAN 共同創設者、プログラム・ディレクター。)
現状日本で医療大麻は利権が伴っているせいかなかなか一般治療に取り入れていただけることの可能性が低いと感じます。
何か一般の人(私たち)にできることはないのかと思います。どのように声を上げていけばもわからず(-_-;)
大麻の可能性は大きいのに!私もリウマチの痛みが治まればと思っています。