・まぶたがピクピク=眼瞼けいれん
眼瞼けいれんは、「まばたきの制御異常」と言えるでしょう。瞼(まぶた)の開閉を制御しているのは脳の神経回路ですので、中枢神経系の病気ということになります。瞼の運動障害に加えて、まぶしい、目の周辺が不快、痛い、目の乾燥などの症状が伴い、さらに抑うつ、不安、不眠など精神症状も半数近くに合併します。
眼瞼けいれんは治りにくい病気で、40~50歳以上に多く、女性は男性の2.5倍も罹患しやすいようです。目がまったく開けられないほど重症な例は少ないですが、一見しただけでは分からないような軽症例を含めると、日本には少なくとも30~50万人以上の患者さんがいると推定されます。多くの場合は原因が不明であり、根治的に治す方法はありません。最も用いられる対症治療は、眼周囲の皮膚にボツリヌス毒素Aを製剤にしたもの(ボトックス)を少量注射して、目をつぶる力を弱める方法です。
中枢神経に原因がある不随意運動という意味では、てんかんやチック、ジストニアに似た病気と言えます。そのため、これらの病態に効果のある医療大麻には、ボトックスの補助療法としての期待が寄せられ近年研究が進んでいます。
この領域の第一報は2017年にミネソタ大学の研究チームによって報告されています。
この調査では、ミネソタ大学眼科に眼瞼痙攣で加療しボトックス注射を受けており、かつ同州の登録販売事業者から医療大麻を購入している患者に個別連絡し、医療大麻の効果について聞き取りを行いました。5名の患者が対象となり、そのうち3名が症状の改善を自覚していました。それらの3名が使用していた成分は1名がTHC:2.5mg/day +CBD:47.5mg/day、1名がTHC:2.5mg/day+CBD:2.5mg/day、1名が10mg/day+10mg/dayでした。
2報目は2022年にイスラエルの研究チームによって行われた前向きのランダム化比較試験です。
この研究ではボトックス注射で改善が得られなかった6名の眼瞼けいれん患者が対象となりました。治療薬としてはTikun Olam社の製剤が使用されたようです。結果として、6週間の治療期間中にプラセボを投与された患者のけいれん時間が74分だったのに対して、実薬群では4分に留まりました。劇的な改善と言っていいでしょう。
3報目は2023年、サンフランシスコのSilkiss医師らが自身のクリニックに受診する患者を対象として行ったCBDを使った臨床研究です。
この研究調査では、定期的にボトックス注射をおこなっている患者12名を対象として、ボトックスにCBDを併用する二重盲検ランダム化クロスオーバー試験を行いました。実薬群ではEpidiolexを200mg/day (1日に2回、100mgづつ)をボトックス注射と併用し、全ての患者は実薬とプラセボの両方を順番に投与されました。結果、眼瞼けいれんの重症度スケールであるJankovic Rating Scaleでは、実薬群で重症度と頻度が0.5点づつ低下しました。これは統計学的には有意な値ではありませんでしたが、患者数が少ないパイロット試験だったことを鑑みると、大規模試験なら統計的に有意な結果が出た可能性が考えられます。
これらの研究結果から、医療大麻やCBDは眼瞼けいれんの治療選択肢として有望であると言うことができるでしょう。命に関わる病気ではないものの、その他の治療法が限定されている事を考慮すると、日本においても研究対象とすべき疾患の一つです。
執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)
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