各地で合法化が進むことで、大麻は女性にとっても身近なものとなりつつあります。THCやCBDは胎盤を通過し、胎児の血中へ移行します。つまり母体が大麻を喫煙するということは発生初期に胎児が大麻成分を摂取することに他なりません。妊娠中の大麻使用率は世界的にみて1.4~29.3%と言われていますが、妊娠中に大麻を喫煙することが胎児に対してどのような影響を与えるのかについて、いまだに結論は出ていません。
私は2020年8月に、“妊婦は大麻を使ってもいいの? 胎児への影響について“という記事を執筆し、妊娠中大麻喫煙が胎児の知能低下をもたらすという説は根拠が弱いことを紹介しました。
その一方で、あらゆる面で全くリスクが無いと言い切ることは難しいようです。
2024年5月、妊娠中の大麻暴露に関するシステマティックレビュー&メタ解析の論文が発表されました。
この研究では2023年6月までに発表された、子宮内大麻曝露による乳児・幼児・幼児の発達アウトカムを調査した横断研究および前向き研究を対象として、網羅的な文献検索を行いました。その結果、57本の論文が解析対象となりました。
メタ解析の結果、子宮内大麻曝露は早産[オッズ比(OR)=1.68、95%信頼区間(CI)=1.05-2.71、P=0.03]、低出生体重(OR=2.60、CI=1.71-3.94、P<0.001)、新生児集中治療室(NICU)入院の必要性(OR=2.51、CI=1.46-4.31、P<0.001)のリスクを増加させることが明らかになりました。
つまり、妊娠中の母体が大麻を使用している場合、新生児が低出生体重で生まれてくる可能性が2.6倍高まるということです。これはしかし、相関関係を示したものであり因果関係では無いことには注意が必要です。大麻に含まれる成分が低体重を直接的に引き起こしている可能性は否定できませんが、妊娠中にも関わらず大麻を必要としているような母体の環境(体調・精神的ストレスなど)が低出生の原因となっている可能性も考えられます。
またこの研究では、注意力低下などの発達障害のリスクを上昇させる可能性があることが指摘されました。この点に関しては、2024年3月に発表された妊娠中の大麻使用と出生児の注意欠如・多動症(ADHD)/自閉症スペクトラム(ASD)リスクに関しての別のシステマティックレビュー&メタ解析を確認します。
この研究では過去に行われた妊娠中の大麻使用と出生児の発達障害についての研究論文14本(ADHD=10本、ASD=4本)をまとめて解析しました。合計で20万人の新生児が調査対象となりました。個々の研究のいずれも、胎内での大麻暴露とその後の発達障害スコアには軽度の正の相関が示され、総合すると妊娠中の大麻使用は胎児の将来的なADHDの相対リスクを1.13倍、ASDの相対リスクを1.30倍増加させると報告されました。
しかしこれに関しても重要なのは数字の冷静な解釈です。相対リスクが1.3倍とは、大麻を使用していない場合と比較して、大麻を使用している場合は1.3倍診断される可能性が高まるということです。小児のADHDの罹患率はおよそ5%、ASDの罹患率は3%と考えられています。これが大麻使用によってそれぞれ、1.1倍、1.3倍に増加すると5.5%、3.9%になる訳です。つまり大麻使用に伴うADHD/ASDの絶対リスク増加はそれぞれ0.5%/1.0%ということになります。妊娠100~200回に対して1回というのは、生活実感においてはほとんど影響が無いということもできるでしょう。
大麻は胎児に対して無害ではありませんが、与える影響はそれほど大きいとも言えません。このようなリスクを正確に把握した上で冷静な議論が行われることを望みます。
正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)
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