自閉症・知的障害とCBD

2024.08.05 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan
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自閉症・知的障害とCBD
2024.08.05 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan

自閉症スペクトラム症(ASD)は発達障害の一種で、こだわりが強く、人付き合いが苦手で、空気を読んで周囲に合わせることが苦手、という特徴があります。小さな頃からコミュニケーションが取りづらく育てにくいということで、診断がつくことが多いようです。原因ははっきりしませんが先天的なもので、育て方の問題ではないと考えられています。これも何故かはわかりませんが、ASDと診断される子の数は世界中で増え続け、この30年で3倍になっています。アメリカの大規模調査では、自閉症と診断される子の割合は100人に1人以上とされています

ASD の方には、コミュニケーションの問題以外にも、興奮、パニック、自傷行為、過度の攻撃性、不眠、てんかんなどの様々な症候が合併することが多いようです。また周囲とのトラブルやストレスから、身体症状(頭痛、腹痛、食欲不振、チックなど)や精神症状(不安、うつ、緊張など)などのさまざまな二次障害をきたしやすいとも言われています。ASDは病気ではなく生まれつきの性格の一種であり、薬でASDを治すことはできませんが、上記のさまざまな症状に対しては薬が有効であり、一剤で多様な効果を持つ医療大麻はうってつけの選択肢と言えます。

我々は2019年にイスラエルの医療大麻制度下で医療大麻を使用する自閉症患者についての研究論文を紹介しました。それ以降の5年間で新たに人を対象とした介入試験が実施され、いずれも良好な成績が得られているので紹介します。

一報目はイスラエルのAdi Aranらによる2021年の報告です。この研究ではBOL製薬が製造する①CBD:THC=20:1のフルスペクトラムCBDオイルと、②精製THC:CBD=1:1のオイルが使用され、③プラセボと比較されました。

参加者はASDと診断された150名の児童・青年(平均年齢11.8±4.1歳、80%が男児)でASD症状はADOS-2によると78.7%が「重度」、社会適応レベルはVineland Behavior Scales によると88%が「低」(標準スコア≦70)でした。この研究では患者は①〜③のいずれかを12週間投与された後に、4週間の休薬期間を挟んで別の群にクロスオーバーされました。(同一の患者に対して2群の治療が適用されたことになります)
主要評価項目はASDに関連する破壊的行動であり、HSQ-ASDと行動問題をCGI-Iという二種類のスコアが用いられました。HSQ-ASDは、ASD児の非協力的行動に関する24項目の親評価尺度である。この尺度では、項目ごと得点が0~9点で評価されスコアが高いほど、問題行動が深刻であることを意味します 。CGI-Iは、行動上の困難に関連するベースラインからの改善を測定するために使用されました。得点は1(非常に改善)から4(変化なし)、7(非常に悪化)の7段階で評価され、1または2(かなり改善)は効果ありと定義されました。評価と判断は医師によって行われました。
結果として、12週間の治療期間後に問題行動が改善した割合は、プラセボ群で21%、THC:CBD=1:1b群で38%に対して、フルスペクトラムCBD群では49%でした。

 

二報目は2022年にブラジルのSilva Juniorらによって報告された二重盲検ランダム化比較試験です。この研究はパライバ州ジョアンペソアにあるパライバ連邦大学(UFPB)ラウロ・ワンダリー病院(Hospital Universitário Lauro Wanderley)の外来で実施されました。

対象は5歳から11歳のASD小児60人であり、CBDオイルを投与する治療群とプラセボを投与する対照群に分け、両群はそれぞれの製品を12週間使用しました。本試験で使用されたのはABRACE(ブラジル大麻支援協会)から供給された、CBD:THC=9:1、濃度0.5%(5mg/mL)のフルスペクトラムCBDオイルでした。オイルの開始用量は1日6滴で、必要に応じて1週間に2回、1日2滴ずつ増量し、最大用量は1日70滴でした。(1滴=0.05mlで換算すると最大量で3.5ml=18mg/dayになります)有効性の評価は半構造化質問票を用いたインタビューによって評価されました。評価された症状は、①攻撃性、②精神運動興奮、③集中力、④食事(食事回数/日)、⑤睡眠(睡眠時間/日)、⑥仲間との社会的交流、⑦言語(発話)、⑧不安、⑨反復的・定型的動作(定型)でした。
半構造化面接の結果から、CBDオイルを投与された子どもは、対照群の子どもと比較して、精神運動性の興奮(かんしゃく)が有意に改善し、1日の食事をより多く受け入れるようになり、社会的相互作用が大幅に改善し、不安が軽減したことが観察され、ASDに関連するいくつかの症状の改善が示唆されました。一方、集中力については、CBDオイルを投与された軽度のASD児のみが有意な改善を示したことが観察されました。

論文はこちら  Evaluation of the efficacy and safety of cannabidiol-rich cannabis extract in children with autism spectrum disorder: randomized, double-blind, and placebo-controlled clinical trial.

また2021年には自閉症と頻繁に合併する、知的障害に伴う問題行動を対象としたランダム化比較試験の結果がオーストラリアから報告されています。この研究はオーストラリア・メルボルンのこども病院で行われたパイロット試験であり、8名の深刻な問題行動を伴う知的障害児(8-16歳)が参加しました。使用された製品はTilray社が製造販売するCBD:THC=100:2のCBDオイルで、最大摂取量はCBD換算で1,000mg/dayでした。4名づつがCBD群とプラセボ群に割り付けられて8週間の投与を受けました。

残念ながら症例数が少なかったため統計的な有意差は評価できませんでしたが、実薬群ではイライラ、引きこもり、反復行動、過活動、問題ある言動などのスコアで概ね改善が認められました。プロトコルからの離脱者はおらず、治験終了後に保護者全員が“同様の問題を抱える子供を持つ他の家族にもこの試験を勧める“と回答しました。

論文はこちら A pilot randomised placebo-controlled trial of cannabidiol to reduce severe behavioural problems in children and adolescents with intellectual disability.  

これら3本の独立した報告から、自閉症や知的障害に伴う問題行動に対して、フルスペクトラムCBDオイルは優れた治療選択肢となり得ることが示唆されます。

日本にも重度の自閉症や知的障害によって、自宅で暮らすことが難しい子どもは存在しており専用施設に入所しています。私も学生時代に実習で訪れたことがありますが、その重篤感に言葉を失ったことを強く覚えています。

それらの子供たちや家族に対して、治療の選択肢が増えることを切に願っています。

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

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