2024年9月11日、CBD製品に許容される残留THC限度値についての政令詳細が発表されました。
この閾値については、大麻取締法改正時点では法律内に明文化されず、別途政令にて定められることとなっていました。そして2024年5月30日に公開されたパブリックオピニオン募集にて、以下の閾値が検討されていることが公開されていました。
①オイル(10mg/kg=0.001%=10ppm)
②飲料 (0.10mg/kg=0.00001%=0.1ppm)
③その他(食品など)(1mg/kg=0.0001%=1ppm)
この暫定案に対してはパブリックオピニオンにて多数の反対意見が寄せられ、また国会質問でも秋野公造議員(参議院・福岡選出)より、“最終製品であるオイルよりも原料の方が規制値が厳しいのは論理的に矛盾しているのではないか“との指摘がなされました。またCBD製品を切実な健康問題に対して使用する患者らによって、見直しを求める署名活動が開始され9月11日時点で35,000筆を超える署名が集まっています。
これらの指摘を受けて、案には若干の修正が施されました。
①オイル・粉末(10mg/kg=0.001%=10ppm)
②水溶液 (0.10mg/kg=0.00001%=0.1ppm)
③その他(食品など)(1mg/kg=0.0001%=1ppm)
原料となる粉末(アイソレート・ディスティレート)に関しては当初の1ppmから10ppmまで閾値が引き上げられたことになります。国際的にみると、依然として世界で最も厳しい閾値となりますが、この一桁の引き上げは大きな一歩ではないかと思います。また厚労省のウェブサイトには、患者への配慮として以下の一文が記載されました。
○難治性てんかんの患者の方が、大麻草由来の成分を含有する製品を継続して使用できるよう臨床研究を実施することを予定しており、後日ご案内をします。
この案に関して、いくつかの問題点が課題として積み残されることになりました。第一に検査体制が対応できるのかという点です。1ppmなどの厳しい値でTHCを検出するためには、一般的に使用されている高速液体クロマトグラフ(HPLC)だけではなく質量分析計(MS)という装置が必要となるようです。検査のプロセスも複雑化するため、実施できる場合も当然、検査費用は高額になります。微量の残留THCは毒性の観点からは問題にならないことを考慮すると、過剰規制によって商品価格が引き上げられることになります。
第二に、ブロードスペクトラム製品やVape製品などは新規制への対応が困難となる可能性が高いでしょう。結果的にアイソレート製品や化学合成されたCBDへの切り替えを余儀なくされるケースや、天然由来CBDを用いたVape製品の販売から撤退せざるを得なくなることが予想されます。これによって引き起こされるのはCBD製品の効能の低下です。Vapeに関しては、THCを理論上含有しない合成カンナビノイド(危険ドラッグ)を主成分とする製品の普及を促進する方向で淘汰圧がかかることになります。これは厚労省によるマッチポンプと揶揄されても仕方がない状況です。
また懸念されるのが、偽造・架空の成分分析表の流通です。現実的に国が流通する製品の全てに関して、抜き打ち検査をするというのは不可能でしょう。仮に検査費用が高騰し、経済効率の観点から欧米で一般流通している製品(2000-3000ppm)に架空の成分分析表を添付することで輸入することが有利になる場合、規制は形骸化し真面目にルールを守る企業だけが損をするという仕組みになる恐れがあります。
これらの課題以外にも実施してみることによって、様々なメリット・デメリットが顕在化するでしょう。それらに対して厚労省が柔軟に対応して頂けることを切に願っています。
執筆:正高佑志(医師・ Green Zone Japan代表理事)
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