様々な物質使用障害(薬物依存症)に対する大麻・CBD治療のまとめ

2024.09.17 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan
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様々な物質使用障害(薬物依存症)に対する大麻・CBD治療のまとめ
2024.09.17 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan

医療大麻やCBDの用途の上位に頻繁にランクインするのが物質使用障害です。物質使用障害とは薬物依存症よりも幅広い概念であり、薬物の使用により問題が生じているにもかかわらず使用を継続する行動パターンを指します。(そもそも、薬物使用者の90%は健康上は問題のない使用者であることが知られており、治療や介入を必要とするのは10%程度に過ぎないことを強調しておきます。)
大麻はより危険性の高いハードドラッグへの入り口になるという仮説が長年提唱されていましたが、近年はむしろ様々な物質の依存状態から抜け出すための治療薬として活用されています。

①オピオイド系鎮痛薬
医療大麻にまつわる最新の研究論文をチェックしていて気がつくのは、オピオイド系鎮痛薬の減量に関連した論文が非常に多いことです。(Pubmedで“大麻、オピオイド“で検索してみると3144件の検索結果がヒットします)この背景には、北米で深刻化している“オピオイド危機“があります。アメリカでは安易に処方された医療用麻薬をきっかけにオピオイド依存状態になり、最終的に過剰摂取などで命を落とす事故が多発しており、大麻はオピオイドに代わる鎮痛手段として期待を集めているのです。また大麻とオピオイドの併用はシナジー効果をもたらし、より少量の鎮痛薬で痛みを抑制できることが知られています。
また医療用麻薬と類似の違法薬物であるヘロイン使用障害に対しても、CBDを用いた臨床試験が実施されています。2019年にNYのマウントサイナイ・ベスイスラエル病院依存症センターが報告した二重盲検無作為化プラセボ対照試験は、ヘロイン使用障害の患者において、CBD(400mgまたは800mg、3日間連続)を投与し、薬物への渇望と不安に及ぼす急性効果(1時間、2時間、24時間)、短期効果(3日間連続)、長期効果(3日間連続投与の最後から7日後)を評価しました。結果、CBDの急性投与は、プラセボとは対照的に、渇望と不安の両方を有意に減少させました。CBD投与の7日後にも、これらの指標に対して有意な持続効果を示しました。

(過去記事:オピオイド危機と医療大麻 2019年9月執筆

日本ではオピオイドの管理が厳格であり、世間の忌避感が強いことも影響して北米のような状況は発生していません。しかし薬物依存の問題は多くの人にとって身近なものです。

②アルコール依存症
その代表格がアルコールです。日本におけるアルコール依存症の生涯罹患率は 0.9% であり、お酒を常飲する人の 20人に1人がアルコール依存症の定義を満たすと指摘されています。AUDIT というスコアで 12点以上は“問題飲酒者“と考えられており、なんと全成人の 5.3%が当てはまるそうです。飲酒習慣のある人に限れば、25%が問題飲酒者ということになります。
2001年、医療大麻合法化の父ことトッド・ミクリヤ博士は、自身がアルコール依存症に対して医療大麻の許可証を発行した 92名の記録を解析し、全員が医療大麻の効果を実感していることを報告しました。(「大変有効」- 50%、「有効」- 50%)
また 2009年、カリフォルニア大学バークレー校のアマンダ・レイマン博士が地元の患者を対象に行った調査では、回答者の 40%がお酒の代用品として大麻を使用したことがあると回答しています。
2020年に報告されたCBDによるアルコール使用障害治療のシステマティック・レビューによると、12件の研究が含まれ、8件がげっ歯類モデル、3件が健康な成人ボランティア、1件が細胞培養を用いたものでした。このレビューでは、CBDはアルコール依存症に対する薬物療法の候補として有望であると結論づけられています。
またコロラド大学が出資した人を対象とした臨床研究が2023年に終了しており、結果が待たれています。

(過去記事:アルコール依存症と大麻・CBD 2020年10月執筆

③ニコチン依存症
タバコに含有されるニコチンは依存を形成しやすいことが知られており、喫煙者の7割がニコチン依存症であると考えられています。またタバコ喫煙は肺がんやCOPDだけでなく様々な病気の原因となることが知られており、国は2006年からニコチン依存症を正式に病気と認め、禁煙治療が健康保険制度の適用となりました。しかしながら、禁煙外来の保険適応期間は3ヶ月と限られており、3ヶ月以降は病院から離れて禁煙を継続する必要があります。この保険終了後の治療継続補助薬として、CBD製品には可能性があります。
2013年にAddictive Behaviors誌に掲載された、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン薬学教室のセリア・JA・モルガンらによる報告によると、CBDインヘーラーをタバコの代用に使った結果、一週間に100本近くあった喫煙本数がおよそ40%減少しました。
実際にSNS上でも、CBDで禁煙している・禁煙できたという声は散見されます。CBD企業がリキッド使用者110名を対象に国内で行ったアンケート調査でも、タバコの本数が減ったと80%が回答しているようです。

(参考過去記事:CBDは禁煙の役に立つのか? 2022年5月

④ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬
日本は先進国の中ではベンゾの処方量が最も多い国で、成人の20人に1人がベンゾを服用しています。特に高齢女性に対して頻繁に処方されていますが、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は認知症リスクや転倒リスクを高めることが知られており、可能であれば高齢者の服用は避けることが望ましいと考えられています。
2023年12月に”Journal of affective disorders reports“に掲載された論文によると、ペンシルバニア州で不安とPTSDに医療大麻を使用する108名の前向き観察研究で、大麻使用開始から3ヶ月で不安のスコアが11.2→7.4へ改善し、それに伴い特にベンゾ系処方薬の服用量が減少したとのことです。
大麻とベンゾの健康上の安全性比較については決着はついていませんが、2018年に BMJ open に掲載されたオーストラリアの家庭医へのアンケート調査では、大麻とベンゾ系でどちらがより安全と感じるか? という質問に、“大麻の方が安全“と回答した医師の方が3倍多いという結果でした。
またベンゾが処方される症状の大半(不安、不眠、けいれん、不定愁訴 etc)は、CBDの適応症と重複しています。ベンゾと異なり、CBDは全ての人に効果があるわけではありませんが、上手に活用すればベンゾから抜け出すための一助となり得るでしょう。

(参考過去記事:ベンゾジアゼピン系薬物依存症と大麻・CBD 2024年2月執筆

⑤精神刺激薬(コカイン・覚醒剤)
覚醒剤やコカインなどの精神刺激薬に関しても、カンナビノイドによる代替可能性が追求されています。
大麻によるコカイン使用障害の治療に関しては、1999年にブラジルの研究者によって、コカインをやめるために大麻を使用した患者の68%が断薬に成功したと報告されています。
また2017年のカナダの調査でも、違法薬物使用調査が追跡している620人のコカイン常用者のうち、122人がコカインを止めるために大麻を使用した経験があると回答しています。結果として大麻治療の導入後は、連日コカインを使用する患者の割合はおよそ半分程度に減少しました。
メタンフェタミン(覚醒剤)については人を対象とした研究成果は見つけることができませんでしたが、基礎研究のレビュー論文が2021年に発表されており、CBDが有望な治療薬候補であることが示唆されています。

(参考過去記事:依存症治療と大麻 2019年4月

⑥大麻使用をCBDで止める
このように大麻を活用して、その他の物質使用障害を治療するというストラテジーに期待が集まっているのは事実ですが、問題は日本においては大麻を使用することの社会的リスクが非常に高いことです。司法の圧力によって、大麻からアルコールや処方薬へと代替することが強制されているのが日本の現状と言って差し支えないでしょう。
仮に健康上は大きなリスクがないにせよ、大麻を使用することがリスクである社会は日本以外にも存在します。そのような地域では、違法な大麻使用をCBDに切り替えることで離脱することができないかという研究が行われています。
2020年、この領域の最初の第二相試験結果がユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの研究チームによって報告され、400mg/dayおよび800mg/dayのCBD摂取は大麻使用障害の治療上、有効である可能性が示唆されています。(200mg/day投与は中間解析で無効と判断され中断されました)

今後、物質使用障害の治療選択肢としてCBDがより幅広く活用されていくことを個人的には願っています。

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

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