国内流通しているカンナビノイド製品の新規制への適合性に関する調査結果

2024.10.08 | GZJ 国内動向 大麻・CBDの科学 安全性 | by greenzonejapan
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国内流通しているカンナビノイド製品の新規制への適合性に関する調査結果
2024.10.08 | GZJ 国内動向 大麻・CBDの科学 安全性 | by greenzonejapan

これまでの日本国内へのカンナビノイド製品の輸入の際には、分析証明書(CoA)にΔ9-THC値がND(非検出)と記載されていれば通関が可能でした。これは、Δ9-THCの含有量に関する明確な規制値が存在しなかったためです。カットオフ値の設定はそれぞれの検査機関に任されており、我々の知る限りでは0.02%(200ppm)をカットオフ値とするCOAに対して輸入許可が降りていました。これに対して、2024年12月12日から大麻取締法が改正されることに伴い、カンナビノイド製品に残留する微量THCについての上限値が政令にて正式に定められる事となりました。パブリックオピニオンの募集などの経緯を経て、本稿執筆時点(2024年10月4日)では以下の三群によるルールが提案されています。

①オイル・粉末(10mg/kg=0.001%=10ppm)、②水溶液(0.10mg/kg=0.00001%=0.1ppm)、③その他(食品など)(1mg/kg=0.0001%=1ppm)

この値は従来の慣例値(約200ppm)よりも厳しい設定であり、国際的にも類を見ないものです。こうした状況を踏まえ、GREEN ZONE JAPAN、Asabis株式会社KCAラボジャパンは、CBD事業者の方々の協力を得て、現時点で国内流通しているカンナビノイド製品および原材料におけるΔ9-THC残留値が新基準に適合するかについて調査するプロジェクトを実施しました。その結果概略を報告します。

方法:
我々は2024年6月16日-7月12日にかけてウェブサイトおよびSNSを通じて事業者を対象とした調査プロジェクトへの参加を呼びかけました。応募頂いた事業者からは検査サンプル(各種カンナビノイド製品)と検査費用の70%を負担頂きました。検査費用の30%はKCAラボジャパンが、日本から米国の検査場への送料はAsabis株式会社代表取締役 中澤 亮太)が負担しました。

カンナビノイドの測定に関しては、以下の三種類の機器を使用しました。

HPLC-PDA: CBDなどの高濃度カンナビノイドの測定に使用しました。
LC-MS/MS: 低濃度のΔ9-THCおよびΔ9-THCAの測定に使用しました。
GC-MS/MS: カンナビノイドの分離のために使用しました。

Δ9-THCの検出限界はサンプル毎に以下のように設定しました。

表1.検出限界の設定(当時の値)

結果:
期間中に24社からプロジェクトへの参加申し込みを頂き、合計で98種類のカンナビノイド製品を検査に提出しました。その結果、新基準に適合可能な製品は49品目(50%)、規制値を超えたTHCを含有する製品は49品目(50%)でした。製品を①含有する主要なカンナビノイド毎に分類した一覧、および②製品形態毎に分類した一覧をそれぞれ表2、表3として提示します。

表2. サンプルに含まれる主要カンナビノイドに応じた検査結果

表3. サンプル形態に応じた検査結果

考察:
今回の調査では、CBD、CBG、またはCBNのみを高濃度で含む製品では、Δ9-THCが検出された製品とされなかった製品の数はほぼ同等でした。対照的にブロードスペクトラム製品では、すべてのケースで規制値を超えてΔ9-THCが検出されました。サンプル形態別では、オイル製品の新基準適合率は非常に高かった一方で、ディスティレート原料、Vape製品、およびハーブ製品では、ほぼすべてのサンプルでΔ9-THCが検出されました。喫煙や気化吸入を想定した製品ではカンナビノイドの濃度が相対的に高いこと、またブロードスペクトラム製品においては微量カンナビノイドやテルペンを残存させるためにアイソレート製品よりも精製プロセスが短いことが影響していると考えられます。当該製品を供給する事業者の多くは、新基準に適合するために原料変更等の対応を迫られる可能性があります。
なお今回の結果は市場全体の状況を反映するものではない点に注意が必要です。新基準に自社製品が対応できるのか確認の為に協力頂いた側面を考慮すると、全体として残留THC量は少ない方向にバイアスが働いていることが予想されます。

KCAラボからの指摘・提言:
今回検査を実施したKCAラボから以下の重要な指摘を頂きました。
第一に、カンナビノイドの検出は特に低濃度での分析において、分離や識別が困難であり、今回提示された低濃度での検出には、高度な科学的知識と広範囲な検査経験、熟練した科学者の専門知識が求められます。また検出限界を極めて低く設定する場合、汚染防止に対して細心の注意を必要とし、同じ製品やバッチであっても、カンナビノイドの均一性、劣化、化学変化によって検出結果にばらつきが生じる可能性があります。検査の難易度はサンプルの形態に応じて異なり、飲料やオイルのような低濃度製品は干渉の可能性が少ないため容易である一方、高濃度のカンナビノイド原材料は、含まれる他の物質の影響で困難です。また検査には、複数の検査装置を使用する必要があるため、時間と費用がかかります。
第二に、同一製品・同一バッチに対して、 他のラボではΔ9-THCが検出されなかったが、KCAでは検出された事例が認められました。また他のラボでは、HPLC-PDAまたはLC-MS/MSのような機器を単一で使用する検査方法が見受けられました。KCAの見解としては、低濃度のΔ9-THCおよび、CBDやその他のカンナビノイドを同時に検査をしようとする場合、正確な定量のためにはLC-MS/MSだけではなく、HPLC-PDA、GC-MS/MSをそれぞれ組み合わせて使用することが必要だと考えているとのことです。
第三に、CBD原料に関して自然変性によるΔ9-THC合成の可能性がある点です。今回のプロジェクトで検査したサンプルの中には、日本出荷前にKCAラボで検査を実施し、COAを発行した同一のサンプルが含まれました。当該製品に含有されるTHC量は初回検査では規定値以下でしたが、再検査時には規定値を超過していました。この点に関しては、より詳細な調査の実施が相応しいと考えられます。また、今日ではCBDを化学合成する手順が確立されており、厳しい規制は合成物質の流通を拡大する方向への淘汰圧として作用する可能性が高いでしょう。

これらの問題点を踏まえて、KCAラボジャパン並びにGreen Zone Japanは以下の内容を提言します。

規制値に関して:
規制値をより高く設定することが望ましいです。これにより、検査コストの削減、複数の検査機関からの信頼性のある結果の確保、COA偽造の防止、合成カンナビノイド市場およびサプライチェーンの強化を避けることができます。
規制値は製品の配合に応じて論理的に設定されるべきです。例えば、原料はカンナビノイドの濃縮物であり、最終製品よりもΔ9-THC濃度が高くなります。また、最終製品においても、比較的カンナビノイド濃度が高いベイプ製品などには、現状より高いΔ9-THC濃度の規制値が設定されるべきです。

検査体制に関して:
提示された規制値の下での正確な検査には、適切な方法や複数の検査機器を使用するべきです。
各検査ラボや使用する手法の一貫性を確保するために、検査ラボ間の性質の比較が考慮されるべきです。
検査機関の選定は、ライセンス、ISO/IEC17025認定、ラボの資格、スタッフの専門知識、カンナビノイド検査における経験や実績等に基づいて行われるべきと考えます。

謝辞(五十音順):
株式会社ウェルファーマ
OFF株式会社 tokyo mooon
株式会社CannaTech
Green Life Production
CBD blanc
CHILL MORE(チルモア)
Naturecan株式会社

以上の企業を含む計24社から、今回の調査における全ての検査サンプルを提供していただきました。ご協力いただき誠にありがとうございました。
本調査は一般社団法人Green Zone Japan(代表理事:正高佑志)およびKCAラボ(CCO:ベローネ ライアン)により実施されました。報告書は天野開翔KCAラボジャパン合同会社 オペレーションマネジャー)によって執筆され、正高(Green Zone Japan)が加筆しました。また、本調査結果や考察については、8月下旬に速報的な形で厚生労働省に提出いたしました。

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KCA Labsは2019年に米国ケンタッキー州で設立されたカンナビノイド検査専門機関です。全米47州、世界30カ国以上に顧客を持つKCA Labsは、栽培者、生産者、ブランド、小売業者に対し、規制試験、原料プロファイリング、汚染物質分析、研究開発を提供しています。最先端の機器を備えたKCA Labsは、大麻、ヘンプ、食品、天然製品の品質検査のためのワンストップ・ラボです。
ISO/IEC 17025 認定(PJLA108651)、ケンタッキー農業局(KDA)ライセンス取得、麻薬取締局(DEA)登録、厚生労働省指定検査機関(US20150)、ケンタッキー州医療大麻ライセンス(TEST0001)、といった各種ライセンスを取得しており、正確な検査結果を提供します。KCA Labsでは70種類以上のカンナビノイドを検査可能であり、日本における規制カンナビノイド成分の不検出について、どこよりも網羅的な検査を提供しています。

電話番号: 050-5806-3150
メールアドレス: japan@kcalabs.com 
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参考文献

[1]     Citti, C., Linciano, P., Forni, F., Vandelli, M.A., Gigli, G., Laganà, A. and Cannazza, G. (2019) Analysis of impurities of cannabidiol from hemp. Isolation, characterization and synthesis of cannabidibutol, the novel cannabidiol butyl analog. Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 175, 112752.

[2]     Pirrung, M.C. (2020) Synthetic Access to Cannabidiol and Analogs as Active Pharmaceutical Ingredients. J Med Chem 63, 12131-12136.

[3]     Mechoulam, R., Peters, M., Murillo-Rodriguez, E. and Hanus, L.O. (2007) Cannabidiol–recent advances. Chem Biodivers 4, 1678-1692.

[4]     Aguillón, A.R., Leão, R.A.C., Miranda, L.S.M. and de Souza, R.O.M.A. (2021) Frontispiece: Cannabidiol Discovery and Synthesis—a Target-Oriented Analysis in Drug Production Processes. Chemistry – A European Journal 27.

 

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