X(Twitter)に大麻所持を匂わせる投稿をすると逮捕されるのか?

2024.10.20 | 国内動向 | by greenzonejapan
ARTICLE
X(Twitter)に大麻所持を匂わせる投稿をすると逮捕されるのか?
2024.10.20 | 国内動向 | by greenzonejapan

10月18日、あるニュースがSNSで大きな話題となりました。

ラッパーJNKMN逮捕、Twitterが原因
“ラッパーのJNKMN(ジャンメン)が麻薬特例法違反(あおり、唆し)の疑いで本日10月18日までに逮捕されたことがわかった。昨年12月に「タクシーの運転手にマリワナくさいって言われて通報されそうになったので、いくらタクシーであろうと梱包はちゃんとしたほうがいいです」とX(Twitter)に投稿していたJNKMN。不特定多数に大麻所持を助長した疑いで愛知県警は彼を逮捕し、自宅を家宅捜索して微量の大麻や吸引道具を押収したという。また愛知県警によれば、JNKMNは投稿したことは認めているが、「大麻を持っている人がトラブルに遭わないように注意喚起した」と容疑を否認しているとのことだ。JNKMNはAwich、PETZ、MonyHorse、kZmらが所属するヒップホップクルーYENTOWNの中心人物。“

ラッパーが大麻所持で逮捕されるのは珍しいことではありませんが、今回はSNS投稿が“大麻使用のそそのかし“に該当すると判断され逮捕状が発行されたことが通常とは異なる点です。
この麻薬特例法違反という容疑は、2019年以降しばしば耳にするようになっています。2020年にラインのオープンチャット上で「やっぱ Weedうまいーっ」と書き込んだことで逮捕された案件については、以下のブログ記事に詳細をまとめています。
大麻について書き込むだけで逮捕されるのか?(2020年9月25日)

この後も2023年の日大アメフト部大麻騒動でも麻薬特例法は登場しました。
日大アメフト部元部員を麻薬特例法違反で書類送検、立件は計11人に…警視庁は捜査終結(2024年3月6日)
さらに2023年12月11日に俳優の村杉蝉之介さんが逮捕されたのも麻薬特例法違反の容疑で、その後に同罪で起訴され有罪判決を受けています。
「リラックスしたい、安易な理由で…」俳優・村杉蝉之介被告に有罪判決 麻薬特例法違反などの罪 あまちゃん、大河ドラマなど出演(2024年3月27日)

・そもそも麻薬特例法とは?
麻薬特例法は1990年に批准された国際条約(麻薬及び向精神病薬の不正取引防止に関する国際連合条約)を日本国内で機能させるために1991年に新たに整備された法律です。末端の個人使用者でなく組織犯罪を取り締まることを立法趣旨として設立されたため、国会通過の際に“不当に人権を侵害しないように努めるべきである“という付帯決議がついています。

2020年以降に適用が目立っているのは、この麻薬特例法のうち8条2項と9条となります。
麻薬特例法第8条第2項は、“薬物犯罪を犯す意思をもって規制薬物として物品を譲渡、譲受、所持等した者について、たとえその物品が手元になかったとしても処罰する“規定です。
これは犯罪組織を摘発するための“泳がせ捜査“を可能にするために作られたルールです。泳がせ捜査とは税関で発見された違法薬物をダミーに入れ替えて受取人のところまで配達させ、受け取ったところを摘発する手法を言います。覚醒剤を小麦粉に入れ替えても、密輸を試みた人を罰することができるように“特例“として作られたルールなのです。
日大アメフト部員と村杉蝉之介さんは、捜査を受けた時点では大麻を所持していませんでしたが、大麻売買の記録が確認されたため、この法律に抵触したとして起訴されました。

もう一つの麻薬特例法第9条では、“薬物犯罪の実行や規制薬物の濫用を公然とあおったり、唆したりした者に対して、3年以下の懲役または50万円以下の罰金を科す“と規定されています。2020年の“Weedうまい“事件や今回のJNKMN事件はこちらの容疑に該当するとして逮捕されています。
9条に関してはこの容疑単体で起訴された例があるかどうかは確認できていません。現時点では麻薬特例法9条は、高い確率で大麻を所持しているであろう人物の身柄を抑えるための口実として活用されている印象を受けます。現物がなく、売買の記録も出てこなければ不起訴となる可能性が高いでしょう。JNKMN氏に関しては、家宅捜索の時点で自宅から少量の大麻が発見されたとのことなので大麻取締法違反に容疑を切り替えて立件される見込みです。(12月以降に大麻使用罪が始まると尿検査の陽性が確認されることで立件が可能となります)

・愛知県警の異常な積極性
今回JNKMN氏を摘発したのは愛知県警江南警察署であることが報道で明らかになっています。近年ミュージシャンの大麻所持での摘発は愛知県警が関与している例が目立ちます。
ラッパー・¥ellow Bucks、大麻所持容疑で逮捕 愛知県警が発表
変態紳士クラブ・VIGORMAN逮捕 営利目的で大麻所持した疑い 愛知県警が発表
人気レゲエ歌手CHEHON逮捕 乾燥大麻を所持した疑い イベント出演後、愛知県警に拘束
このうちVIGORMANは大阪で、CHEHONは品川で逮捕されています。今回のJNKMN事例を含め、県外まで摘発に出向く熱意がどこから来るのかは不明です。

・大麻関連コンテンツは摘発されるのか?
今回の摘発は表現の自由の問題と密接に関係しています。もしもTwitterに大麻に関連するコンテンツを投稿するだけで罪に問われるのであれば、同じ原理で大麻に関連する楽曲や映像作品の製作者や配信元も全て、恣意的に摘発されるリスクを抱えることになります。Netflixでは“マリファナ・クッキングバトル“と題された大麻を用いる料理番組が公開されていますが、JNKMN氏のツイート投稿と比較して、大麻使用教唆の色合いが強いことは明白でしょう。

現時点では違法薬物の所持・使用が強く疑われる場合に限って、逮捕状請求の口実としての活用に限定されており、コンテンツ発信者の大麻所持が疑われない場合は取締対象とはならない印象です。しかし個人使用摘発の為の特例法適用は1991年の法律創設時の立法趣旨に反していると考えられます。裁判所は付帯決議を重んじて、安易な逮捕令状発行を許可するべきでありません。

参考:日大アメフト部の薬物事件、麻薬シンジケート向けの法律が拡大適用されている重大問題(2023年12月14日 朝日新聞 園田寿執筆)

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

«
»