THCHの指定薬物化は合成カンナビノイドの流通を減少させたか? ー学術論文が掲載ー

2024.11.12 | GZJ 国内動向 安全性 | by greenzonejapan
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THCHの指定薬物化は合成カンナビノイドの流通を減少させたか? ー学術論文が掲載ー
2024.11.12 | GZJ 国内動向 安全性 | by greenzonejapan

この度、2024年11月11日に発行された日本アルコール・薬物医学会雑誌 59巻 2号に、“指定薬物制度によるTHCH規制が市場流通と事業者に与えた影響についての横断調査“と題した論文が掲載されました。同論文はGreen Zone Japanと国立神経精神医療研究センターの松本俊彦医師らとの共同研究となります。

https://mol.medicalonline.jp/archive/search?jo=fq5alcoh&ye=2024&vo=59&issue=2

2021年10月にHHCが流通開始して以降、厚生労働省は“指定薬物制度“を活用し、新規成分をモグラ叩きのように順次規制していきました。これは10年の“危険ドラッグ“全盛期と同じ戦略ですが、松本俊彦先生などの当時から臨床現場に携わっていた方からすると規制により“危険ドラッグ“の有害性はむしろ増強していったことが指摘されています。また規制が告知されるたびに、各社は在庫の一斉処分セールを開始していました。これを目の当たりにした私が感じたのは、皮肉なことに頻回の規制導入が合成カンナビノイドの流通総量を増加させているのではないかということです。

この仮説を検証するために、我々はTHCH(2023年7月25日に規制予告・8月4日に規制実施)を扱っていた事業者向けのウェブ調査を実施しました。対象者はTHCHを扱っていた経営責任者・店舗責任者とし2023年10月20-24日を回答機関としました。期間中に51件の有効回答を得ました。

結果の詳細は割愛しますが、調査の結果以下の事実が明らかになりました。

・規制予告後に64.7%の事業者がセールや無償配布を実施した
・規制予告前後10日間の比較に関して、47%の事業者が予告後の製品流通量が増加したと回答
・規制導入により100万円以上の被害を被ったのは事業者の30%程度
・回答企業の86%がTHCHの後継成分を取り扱う意思を表明
・THCHの安全性に関して、問題ないと考えていたのは60%、軽度の健康被害を引き起こし得ると考えていたのは30%、重大な健康被害を引き起こし得ると回答したのは2%

これらの結果から我々は、少なくともTHCHに対する規制は合成カンナビノイドの流通減少に寄与せず、類似の後継成分への移行を促しただけであったと結論しました。またTHCV規制を筆頭に、闇雲な規制拡大はカンナビノイドの適正利用を阻害する懸念があることを考察にて指摘しました。THCHの規制以降、度重なる包括規制が導入されていますが、現時点においても精神作用を伴う新規合成カンナビノイドの根絶には至っていません。イタチごっこ的な供給低減政策には限界があることを、規制官庁は認識すべきです。

本文執筆にあたり、共著者としてご協力を頂きました以下の先生方に改めて御礼を申し上げます。(敬称略)
平野弘樹(C&H株式会社)、梅村二葉(新潟大学大学院)、赤星栄志(日本大学生物資源科学部)、荒木李香(はたらく人・学生のメンタルクリニック)、丸山泰弘(立正大学法学部)、松本俊彦(精神・神経医療研究センター)


最後になりましたが、ウェブ調査にご協力頂きました全ての事業者の皆様に心よりの御礼を申し上げます。
この論文を皆さんに捧げます。

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

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