皆様のご支援によりGreen Zone Japanは近年、査読論文に学術研究報告を投稿できています。
今回はそれらの内容を時系列に沿って紹介します。
2019年
・ 脳神経内科医の医療用大麻利用に関する 意識調査と情報提供の意義(臨床神経学)
私が執筆した1本目の論文は、熊本大学脳神経内科同門会に所属する医師200人を対象に実施した医療大麻についての意識調査です。本調査では大学病院で正高と直接の接点があり勉強会などによる教育を受けた群と、接点がなく医療大麻についての教育を受けていない群に分けて解析を行いました。これは日本国内における医師を対象とした意識調査研究としては初の調査であり、何点かの興味深い内容が示されました。
・医療大麻の研究・臨床応用ともに半数以上の医師が許容している
・3回の教育を受けることにより医療大麻を受容する率は有意に上昇した
・医師の薬物に対するリテラシーは低い(40%近くが大麻と覚醒剤を同等の危険性と評価)
2020年
・CBDが著効した日本初の症例報告(Epilepsy and behaviour reports)
2018年に正高が相談を受け、CBD企業のスポンサーを取り付けて治療導入した大田原症候群の症例を学術論文に報告しました。日本国内においてCBDが難治てんかんに著効することを初めて示した症例です。本症例を契機にGreen Zone Japanは聖マリアンナ医科大学てんかんセンターと交流を持つようになりました。また本症例は秋野議員による大麻取締法改正に向けた国会質問の契機となりました。
・大麻抽出製剤と抗てんかん作用(総説・Epilepsy)
聖マリアンナ医科大学との交流を経たことでてんかん関連の商業雑誌にCBDについての総論を執筆させて頂きました。カンナビノイドについての日本語での総論は(私が知る限りは)本稿が初となります。同論文は患者会の参加者がCBD服用を希望する際に、主治医に送付する紹介状の添付資料として過去に100部以上送付しました。
2021年
・日本における大麻使用者の実態調査・第一報(アルコールアディクション医学会雑誌)
2021年には日本国内の(違法)大麻使用者を対象とした大規模横断調査を実施しました。この調査は同年1月に“大麻使用罪創設“との報道があったタイミングで実施したこともあり、短期間に4795件という回答を集めることができました。調査内容は国立神経精神医療研究センターの松本俊彦先生らが実施した先行研究を参考としました。この調査により、日本国内で大麻を使用する方々の大半が依存状態にはなく、また社会的に機能していることが示されました。政府の有識者会議での参考資料として活用されることを目指し、急ぎで日本語論文として投稿せざるを得なかったのが今となっては惜しまれます。(英文学術誌に掲載可能な内容であったと自負しています)なおこちらの論文に関しては、Buzzfeed Medical Japanの取材を受けYahooニュースにも掲載されております。
2022年
・日本における大麻使用者の実態調査・第二報(NPPR)
前年に実施した大麻使用者調査のデータを追加解析した第二報を英文学術誌に投稿しました。今回は大麻使用障害(依存症)や大麻精神病に該当したユーザーとそれ以外の健康な使用者の間にはどのような差異があったのかについて解析を行いました。その結果、以下の事実が明らかになりました。
・依存になりやすい因子として、“精神疾患の既往“、“若年からの使用“、“家族の精神疾患の既往“が検出された
・大麻精神病になりやすい因子として、“若年からの使用“、“家族の精神疾患の既往“が検出された
・大麻による健康被害を引き起こす因子として重要なのは使用者の背景であり、大麻使用量や期間は無関係の可能性が高い
こちらの論文に関してもBuzzfeed Medical Japanさんに取材頂きました。また本研究論文はNPPR誌の”頻繁に読まれた論文“としての賞を受賞しました。
・難治てんかん患者群に対するCBDの有効性の横断調査(Neurology Asia)
2018年にCBDが著効した1例目の症例を発見して以降、我々は難治てんかん患者を対象としたCBDのチャリティー供給プロジェクト“みどりのわ“を運用開始しました。プロジェクトに参加中の38名の難治てんかん患者と家族にCBDの有効性と安全性についての調査を行ったところ、およそ半数の患者でてんかん発作の抑制が認められていることが明らかになりました。この調査により、てんかんの詳細な診断名がどのようなものであれ、CBDは一定の効果が期待できることが明らかになりました。
・日本のCBD使用者を対象とした実態調査(日本統合医療学会雑誌)
大麻使用者を対象とした横断調査に続いて、日本国内でCBD製品を使用しているユーザーを対象とした横断調査を実施しました。その結果、以下の事実が明らかになりました。
・CBD使用の主な用途はリラクゼーション、不安・不眠・抑うつの緩和、何らかの痛みの緩和などが主
・様々な病気・症状に対してCBD使用に伴う症状緩和が認められた
・副作用を疑う症状は8%程度に認められたが重症度として軽度であった
・合法大麻成分・CBDとメンタルヘルスケア(総説・心と社会)
松本俊彦先生より、患者のCBD自己使用を忌避する精神科医が多くて困っているので啓発の為に記事を書いてほしいとの要望があり総説を執筆させて頂きました。精神疾患に対するCBDの可能性と医師が気をつけるべき点について簡潔にまとめています。
2023年
・HHC使用者におけるΔ9-THCの尿検査陽性:横断的研究(アルコールアディクション学会雑誌)
2021年の10月に市場にHHCという新規合成カンナビノイドが登場して以降、日本のカンナビノイド市場には精神活性作用のある製品が継続的に供給されるようになりました。これらの製品と共に出現したのが、尿検査における偽陽性の問題です。新規合成カンナビノイドとTHCは構造式が類似しているため、職務質問などで実施される尿検査の際にHHCはTHCと混同される可能性が考えられました。そこで我々はHHC製品を使用するユーザーの協力を得て、尿検査をキットにて実施してもらいその結果を集計しました。したところ、80%のユーザーでTHC反応が検出されました。これはHHCが大麻を検出するための尿検査で偽陽性となることを世界で初めて示した報告となります。
・大麻関連施策の現状と課題(総説・精神科治療学)
精神科治療学という業界雑誌でアディクション診療の特集が組まれるとのことで、松本俊彦先生より依頼を頂き、大麻関連の総説を執筆させて頂きました。法改正が実施される直前のタイミングでもあり、どのような変化があるのかについて言及しています。
2024年
・難治てんかんの双子症例報告(Epilepsy and behaviour reports)
カンナビノイド医療患者会を運営する中で出会った、一卵性双生児の難治てんかん症例に対してCBDが著効した例を学術報告しています。双子のうち1例はCBDアイソレートで発作が抑制できましたがもう一例は完全抑制には至りませんでした。そこでCBDブロードスペクトラム製品に切り替えたところ、もう一例も完全な発作抑制が得られました。本症例はTHCVの正規用途を厚労省が認めるきっかけとなりました。
・CBNの用途と有効性・安全性についての横断調査(Integrative Medicine Reports)
CBDに引き続き、CBNを使用している国内ユーザーを対象とした横断調査を実施しました。ユーザーのおよそ⅔が何らかのヘルスケア目的でCBNを使用していること、またその用途はCBDと同じく不安、不眠、うつなどのメンタルヘルスケアが多くを占めること、CBNの安全性は高く重篤な副作用を呈する者は皆無であったこと、CBN依存が疑われるユーザーの割合は5%程度であることが示されました。
・THCHの規制が合成カンナビノイド流通に与えた影響について(アルコールアディクション学会雑誌)
HHC以降の指定薬物戦争がイタチごっこの様相を呈するにつれて、規制に意味があるのかという疑問が生じるようになりました。そこで第三世代のカンナビノイドであるTHCHを題材に規制導入の前後で流通量にどのような変化があったかなどを、販売業者を対象としたアンケートを実施することで明らかにしました。その結果、規制はセールを誘発し合成カンナビノイドの流通を一過性に増大させたこと、また事業者の多くは後継成分に移行しただけであることが示されました。
2025年も引き続き学術調査を実施していければと考えておりますので何卒ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
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