大藪大麻裁判について

2025.01.04 | 国内動向 | by greenzonejapan
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大藪大麻裁判について
2025.01.04 | 国内動向 | by greenzonejapan

・大藪大麻裁判とは?
2021年8月8日に群馬県の路上で職務質問を受けた大藪氏が大麻草3.1gを所持していた容疑で起訴された事案です。裁判は2021年10月24日に始まり、2024年6月4日に一審判決が出ました。

・大藪龍二郎って何者?

大藪龍二郎氏は1971年生まれの陶芸家であり、器を焼くことで生計を立てています。一般的な陶芸作家と異なるのは、彼が日本の焼き物の原点である縄文土器に着想を得て、当時使われていた道具や技法を現代に再現するという手法により陶芸の持つ可能性を拡張しようとしている点にあります。縄文土器に特徴的な紋様は当時、主要な繊維であった大麻を用いてほどこされていたため、大藪氏もまた自身の作陶活動に大麻繊維や麻の灰を釉薬として活用していました。実際に彼の作品をみると工芸作家というよりは芸術家としての側面が強いことが理解頂けるかと思います。

これは画家の父や小説家の叔父を持つ大藪家に生を受けたことに強く影響を受けているのかもしれません。自身の作陶生活で大麻繊維を用いるうちに、大藪氏は日本の大麻法制に対する疑問の念を深め、仲間達と合法化に向けた活動を始めようと“クリアライト“という団体を立ち上げたばかりでした。奇しくもそのタイミングで本人が逮捕され、クリアライトの活動は大藪大麻裁判の支援が中心となっています。

クリアライト公式サイト

・普通の大麻裁判と何が違うの?
大藪氏のような少量所持の事案では、容疑を認めることで裁判は速やかに進行し通例通りの判決(初犯は執行猶予3年)が下されるのが一般的です。しかし大藪氏は罪状の認否を“保留“することで、裁判所になぜ大麻所持が問題なのかを改めて問うことを決めて裁判を開始しました。その為、通常の大麻裁判よりも長い期間に渡り、様々な論点が議論されることになりました。大藪裁判を巡っては弁護団が発足し、“大麻弁護士“として長いキャリアを有する丸井英弘先生と、犯罪学者であり元龍谷大学の石塚伸一先生らが主に弁護を担当しています。

・どのような点を争ったの?
大藪裁判では弁護団は主に以下の論点を巡って大藪氏の無罪を訴えました。

①大麻を押収した職質の違法性
大藪氏は路肩に車を停めて仮眠しているところに、当初は道路交通法違反の疑いで職務質問を受けました。しかし免許証を確認した際に、大藪氏に過去に大麻関連案件で参考人として事情聴取された歴があることが判明、また彼が“ラテン系の服装“をしていたことから大麻所持が疑われると判断した警察官により所持品検査が実施され、大麻が押収されました。これは“レイシャルプロファイリング=人種差別“に該当する為に違法職質であり、押収された証拠は無効であると弁護団は主張しました。

②大麻であることの鑑定証明力
押収された植物片が大麻であるかどうかの科学的鑑定結果が不十分であるとして、弁護団は証拠の無効を主張しました。

③犯罪の成立要件を満たしていない
大麻取締法には“みだりに所持してはならない“と記載されていますが、何をもってみだりとするかの定義は不明確です。大藪氏は不安障害などの既往を抱えており、大麻所持には自己治療の側面があること、その為に“みだりに“には該当せず犯罪成立要件を満たしていないことを弁護団は主張しました。

④大麻取締法の違憲性の訴え
そもそも大麻取締法は日本国憲法13条が規定する幸福追求権を侵害しており、法律自体が憲法違反であることを弁護団は訴えました。

・判決は?
残念ながら上記の弁護団の訴えは認められず、大藪氏に対して一審は懲役六ヶ月・執行猶予3年の判決を言い渡しました。これは相場通りの量刑であり重くも軽くもなっていません。

・これからどうなるの?
判決を不服とした大藪氏と弁護団は東京高等裁判所に控訴することを決めました。既に控訴審に向けた書類の準備は進んでおり、第一回目の公判は以下の日程で実施されます。

大藪大麻裁判 第二審 東京高等裁判所
2月4日(火)15:30ー16:00

・大藪大麻裁判の社会的意義とは?
現在、日本国内では年間に6000件ほどの大麻事案での逮捕が発生しており、その半数が起訴され裁判で有罪となっています。しかしその大半はベルトコンベアに載せられたが如く自動的に処理されるばかりで、裁判所に対して大麻所持の正当性を訴える被告人は皆無と言えます。行政に対する裁判所の意見というのは重要性が高く、仮に無罪判決や大麻取締法の違憲判決が出れば、厚生労働省としても真摯に向き合う必要性が生じることは間違いありません。そのような意味において、裁判所で大麻取締法の是非を争うことは、合法化へ向けた楔を打ち込もうという営みと言えるでしょう。
また今回の法廷闘争で学んだ知識を広く共有することで、今後、大麻取締法違反で逮捕・起訴される人々の弁護活動における参考資料となることが期待されます。

・支援の方法
大藪大麻裁判では裁判費用の寄付を募っています。寄付先などは公式サイトからご確認ください。また裁判の傍聴は裁判官へのプレッシャーになりますのでお時間に余裕のある方は是非ともご参列頂けると幸いです。

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan 代表理事)

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