甲状腺疾患(橋本病/バセドウ病)と医療大麻・CBD・カンナビノイド

2025.02.18 | 病気・症状別 | by greenzonejapan
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甲状腺疾患(橋本病/バセドウ病)と医療大麻・CBD・カンナビノイド
2025.02.18 | 病気・症状別 | by greenzonejapan

・甲状腺と疾患

甲状腺は首の前面に位置する内分泌器官であり、甲状腺ホルモンを産生しています。このホルモンは車のアクセルにも例えられ、人体における代謝を高める作用を司っています。甲状腺機能の異常は大まかに、機能低下と機能亢進の二種類に分類されます。

甲状腺機能亢進症:甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態で、代表的な疾患としてバセドウ病があります。症状として、動悸、体重減少、発汗過多、手の震えなどが見られます。

甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンの分泌が不足する状態で、主な原因として橋本病(慢性甲状腺炎)が知られています。症状には、疲労感、体重増加、寒がり、皮膚の乾燥などがあります。

これらの疾患は女性に比較的多く発症します。有名人では歌手の綾香さんやサッカー選手の本田圭佑選手などが甲状腺疾患を罹患したと報道されています。バセドウ病、橋本病のいずれも自己免疫に関連した機序で発症する疾患であるため、大麻が有する抗炎症作用や免疫調整作用はこれらの疾患に対して保護的に機能する可能性が期待されています。

・大麻の甲状腺機能への影響

大麻使用が甲状腺機能に与える影響については研究が始まったばかりと言えるでしょう。2017年にニューヨークの小児科医であるSonali Malhotraらの研究チームは、アメリカの大規模疫学データを用いて大麻使用と甲状腺機能についての解析を行いましたその結果、大麻を現在使用している群(全体の15%)では、そうではない群と比較し、脳で産生される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の基礎値が有意に低いこと、また橋本病やバセドウ病と関連する抗甲状腺ペルオキシターゼ抗体(TPO抗体)の陽性率が有意に低いことが明らかになりました。これは大麻が甲状腺疾患に対して保護的に働いている可能性を示唆すると考えられます。

・人を対象とした介入研究は存在しない

しかし残念ながら2025年2月時点で、甲状腺機能異常を対象とした大麻ならびにカンナビノイドによる臨床研究や症例報告は存在しないようです。甲状腺機能異常に伴う様々な症状の緩和に対してCBDなどのカンナビノイドが有効である可能性は考えられますが、根本治療としてカンナビノイドが役立つかどうかは”なんとも言えない”というのが現時点での回答となります。

・標準治療との兼ね合い

甲状腺ホルモンは化学合成が可能であるため、処方薬として流通しています。(チラージン)ですので甲状腺機能低下に対してはホルモン補充が治療法として第一選択となります。また甲状腺機能亢進症に対しては、薬物治療、放射線治療、外科的手術が主な選択肢となります。これらを併用することにより、多くの場合は症状のコントロールは可能です。

医療大麻の研究や臨床応用は、その他の治療法が乏しい難治疾患から優先して実施される傾向があります。喘息や甲状腺疾患などの自己免疫の病態にも有効であることは期待できるにもかかわらず、なかなか研究が進まない背景には、これらの疾患に対する標準医療が相対的に充実していることが関連しているでしょう。日本で流通しているCBDなどのカンナビノイド製品の使用に関しても、まずは甲状腺診療の専門機関に受診し標準治療を受けた上で、それでも症状緩和が十分に得られない場合には適応を考慮するという順番が望ましいと思われます。

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

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