医療大麻・カンナビノイドと慢性腎臓病(CKD)

2025.03.05 | 大麻・CBDの科学 安全性 | by greenzonejapan
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医療大麻・カンナビノイドと慢性腎臓病(CKD)
2025.03.05 | 大麻・CBDの科学 安全性 | by greenzonejapan

医療大麻の効果効能は多岐に渡ることが知られていますが、腎疾患に対する影響は未だ研究がほとんど行われていないと言えるでしょう。近年になってようやく、腎疾患に関連した学術論文が報告されるようになってきましたのでめぼしいものを紹介します。

大麻の使用は腎機能にどのような影響をあたえるか?

一報目は2024年にニューヨークのマウントサイナイ医科大学の研究者らが行った、大麻使用が長期的な腎機能に与える影響についての事後分析です。この研究では2009年から2015年の間に、急性腎障害(AKI)の評価を目的としたASSESS-AKI研究に参加した1,599人のデータを事後的に分析しました。
参加者の多くは慢性腎臓病(CKD)に罹患していました。参加者のうち113人が過去1年以内に大麻を使用しており、96人が慢性的に大麻を使用していました。CKDを持たない参加者では、大麻の使用はeGFRの年間低下率やCKDの発生率に影響を与えませんでした。一方でCKDを持つ参加者では、大麻の使用はeGFRの年間低下率を加速させました。(具体的にはCKD患者におけるeGFRの年間低下率の中央値は大麻使用者で -2.69 mL/min/1.73 m2/年、非使用者で -1.41 mL/min/1.73 m2/年でした。)

この結果から断定的なことは言えませんが、大麻使用が腎機能に与える影響はあっても軽微であると考えることができるでしょう。(仮に劇的な影響があれば、これだけの症例数の解析によって有意な差が出るはずです)

大麻は慢性腎臓病に伴う症状を緩和するか?

二報目は慢性腎臓病患者の症状管理におけるカンナビノイドの使用に関するエビデンスをレビューしたものです。CKD患者では本来は尿中に排泄される毒素が体内に貯留することで、慢性の疼痛、悪心嘔吐、食欲低下、掻痒感、不眠などの様々な症状が合併することが知られています。カンナビノイドはこれらの症状を緩和する手段として有望であることがエビデンスと共に示されています。

慢性疼痛
CKDステージ3〜5の透析前の患者の約3分の2が慢性疼痛に苦しんでおり、そのうち48%が重症と報告しています。大麻が合法化されている米国の一部の州では、年間オピオイド投与量が大幅に減少し過剰摂取による死亡率が24.8%減少したことが観察研究で示されています。腎機能が正常な患者を対象とした3つの系統的レビューでは、カンナビノイドが慢性神経障害性疼痛を軽減する可能性があることが示唆されています。これらのエビデンスは、末梢神経障害、帯状疱疹後神経痛、神経または脊髄損傷、複合性局所疼痛症候群、HIV、糖尿病に関連する神経障害性疼痛を有する患者から得られたものです。神経障害性疼痛の治療は、糖尿病性CKD患者において一般的な合併症であるため、CKD患者においても非常に重要です。

悪心・嘔吐
血液透析を受けている患者における悪心と嘔吐の発生率は、それぞれ18.2%〜28.3%、9.8%〜11.7%と推定されています。カンナビノイドの使用を支持するエビデンスは化学療法誘発性悪心・嘔吐(CINV)の設定における合成カンナビノイドに関するものであり、CKD患者は除外されています。合成THC製剤は、中程度から高度の催吐性化学療法レジメンにおける悪心と嘔吐の治療において、プロクロルペラジンおよびメトクロプラミドと同等の有効性を示していますが、めまいや鎮静などの副作用による患者の脱落率が高いことが報告されています。カンナビノイドがCINV以外の悪心と嘔吐の原因に有効かどうかを判断するためには、さらなる研究が必要です。

食欲不振
尿毒症症候群の症状として、食欲不振は徐々に栄養失調、悪液質、CKDの後期段階に向かってQOLの低下につながります。カンナビノイドの食欲不振に対する使用は、エイズおよびHIV消耗性症候群、癌、神経性食欲不振の文脈でのみ研究されており、尿毒症性食欲不振ではまだ研究されていません。カンナビノイドによる食欲増加は既知の効果ですが、現時点では、CKD患者の尿毒症誘発性食欲不振および悪液質における食欲刺激剤としてのカンナビノイドの使用を支持または反証するのに十分なエビデンスはありません。

尿毒症性掻痒
尿毒症にともなうかゆみは一般的ですが、その治療法は限られています。カンナビノイドは掻痒の神経調節因子として特定されており、単一の観察研究で尿毒症性掻痒に有望であることが示されています。血液透析中で尿毒症性掻痒を経験している患者の小規模な研究(n = 21)では、局所クリーム(Physiogel AIクリーム®)の形で、N-アセチルエタノールアミンおよびN-パルミトイルエタノールアミンを含む内因性カンナビノイドを1日2回3週間適用すると、掻痒と乾燥症の両方が効果的に軽減されました。掻痒と乾燥症はそれぞれ38.1%と81%の患者で完全に解消されました。

不眠症
睡眠障害の発生率は一般集団と比較して腎障害患者で高く、不眠症、レストレスレッグス症候群、睡眠呼吸障害、日中の過度の眠気が頻繁に報告されています。カンナビノイドの不眠症治療の研究は1970年代に始まりましたが、腎機能障害のある患者は除外されています。現在のエビデンスは、慢性腎不全患者の不眠に対するカンナビノイドの使用に関するガイダンスを提供するには不十分ですが、さらなる研究を促すものです。

腎臓内科医は医療大麻のことをどう思っているか?

3報目の論文は、カナダの腎臓専門医を対象に、CKDおよび透析を受けている患者におけるカンナビノイドの使用に関する意識調査を行った結果をまとめたものです。この調査では、腎臓専門医が、腎臓病患者の症状緩和を目的としたカンナビノイドの使用や研究に対して、どの程度支持しているかを評価しました。
348名の対象者のうち、151名(43.4%)から回答が得られ、回答者の82%が処方されたカンナビノイドを使用している患者のケア経験を有していました。また19%は自身でカンナビノイドを処方した経験がありました。さらに回答者の91%が非処方カンナビノイドを使用している患者のケア経験がありました。非処方カンナビノイドの使用理由としては、娯楽目的(88.3%)、慢性疼痛(73.7%)、不安(52.6%)が多かったとのことです。

難治症状に対する使用への支持
医師らは症状が難治性の場合にカンナビノイドの使用を支持していました。具体的な症状別にみると、慢性疼痛、食欲不振、悪心・嘔吐、レストレスレッグス症候群、掻痒、睡眠障害に対する支持が高く、不安、抑うつ、疲労に対する支持は比較的低い傾向にありました。臨床現場でのカンナビノイド使用を支持する理由としては、既存の治療法では効果がない、または忍容性が低い場合に、カンナビノイドが症状緩和の代替手段となり得ることが挙げられました。また、カナダでの大麻合法化以降、カンナビノイドの使用機会が増加したことも背景にあると考えられます。一方、カンナビノイドの使用に抵抗を示す腎臓専門医も存在します。その理由として、有効性や安全性に関するエビデンスが不足していること、適切な投与量に関する知識がないこと、カンナビス使用障害や依存症のリスク、移植候補者への影響などが挙げられています。

臨床試験への参加に対する支持
また医師らは、経口または局所THCまたはCBDとプラセボを比較するRCTへの患者登録を支持していました。症状別にみると、悪心・嘔吐、慢性疼痛、睡眠障害に対する支持が高く、抑うつに対する支持が最も低い傾向にありました。RCTへの参加を支持する理由としては、カンナビノイドの有効性と安全性を評価するためのエビデンスが必要であること、生物学的な根拠があること、そして、回答者自身の経験からカンナビノイドの効果を実感していることなどが挙げられます。

この調査結果から、カナダの腎臓専門医は、CKD患者の症状緩和を目的としたカンナビノイドの使用に対して、概ね支持していることが明らかになりました。しかし、自らによるカンナビノイドの処方には抵抗があり、他の医師への紹介を希望する傾向がありました。また、カンナビノイドの有効性、安全性、投与量に関するエビデンスが不足していることを懸念していました。

今後、慢性腎障害の領域でも研究の発展が強く望まれることは間違いありません。

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

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