カンナビクロメン(CBC)は大麻に含まれる非精神作用性のカンナビノイドの一種です。CBCは1966年にイスラエルのラファエル・ミシューラム博士の研究チームによって初めて単離されました。当初はCBDと混同されることもありましたが、後の研究により独自の化学構造と生理活性が確認されています。THCVなどと並ぶ天然由来のレアカンナビノイドとして成分分析表(COA)などには項目が記載されていますので、カンナビノイドに詳しい方なら名前を聞いたことがあるかもしれません。
近年、CBD製品の普及に伴い、CBCも注目されるようになりました。CBCは天然の大麻植物中には微量しか含まれないため、商業的にはCBGAからの半合成や抽出によって製品化されています。そのため、CBCを高濃度で含む製品は希少であり、価格も高めに設定されています。 (あるサイトではCBCアイソレート原料は1kgで9500ドル=135万円でした。ちなみに同じサイトでCBDアイソレートは1kgあたり550ドルでした。17倍の価格です。)
実際にアメリカの市場にはCBCオイルやCBCを配合したグミが流通しています。
一方の科学的な研究に関しては、2025年4月時点でカンナビクロメンに関連した論文は270本認められました。(同じ検索でヒットする論文件数はCBDで7571本、CBGで527本です)これらの基礎的な研究によって、CBCはCB2受容体のアゴニストであること、TRPA1チャネルの強力なアゴニストであること、内因性カンナビノイド代謝酵素への独特の影響を持つことなど、他の主要なカンナビノイドとは異なる薬理学的プロファイルを有することが明らかになっています。またCBCは抗炎症作用、鎮痛作用、抗痙攣作用、抗菌作用、抗うつ作用、抗腫瘍作用などの潜在的な治療効果を有していると考えられています。(末尾に基礎研究の成果概要を添付します)しかしながら、現時点でCBCを人に投与した臨床研究の結果を報告した学術論文は一切発見することができませんでした。ですのでこれらの研究結果はあくまでも細胞や動物実験をベースにしたものです。
現時点でCBCを主成分として配合したカンナビノイド製品があるか調べてみましたが、2025年4月時点では日本国内での流通は確認できませんでした。価格が高く、かつ精神作用を伴わないため需要が期待できないため製品化には至っていないのではないかと考えられます。
CBCに潜在的な可能性があることは間違いありませんが、現時点で臨床的な存在意義があるか問われたなら、金銭的なコストパフォーマンスまで含めて考えると実際の出番が訪れる状況は極めて限られるのではないかと思います。
1. 抗炎症作用
CBCの抗炎症作用は、最も多く研究されている分野のひとつであり、in vitro(試験管内)およびin vivo(動物実験)双方のモデルで確認されています。
・マクロファージにおける研究 CBCは、リポ多糖(LPS)で刺激された腹膜マクロファージにおいて、亜硝酸塩、IFN-γ、IL-10などの炎症性因子の産生を抑制しました(Romano et al., 2013)。同様に、マクロファージ系細胞株RAW 267.2でも、CBCによりiNOS、IL-1β、IL-6、TNF-αのmRNA発現が抑制されました(Hong et al., 2023)。
・ケラチノサイト(皮膚細胞)における研究 CBCは、LPSで刺激されたヒト角化細胞において、IL-8やIL-22の分泌を24~48時間後に抑制したという報告もあります(Tortolani et al., 2023)。 ・動物モデルでの研究 マウスやラットの足にカラゲナンを注射して炎症を誘発するモデルでは、CBCが炎症および浮腫を有意に軽減しました(Wirth et al., 1980;Turner and Elsohly, 1981;Hong et al., 2023)。また、LPS誘導性浮腫モデルや潰瘍性大腸炎モデルでも同様の効果が確認されています。
・機序に関して 一部の研究では、抗炎症作用がCB1/CB2受容体やTRPA1チャネル、MAPK経路を介している可能性が指摘されていますが、作用機序はモデルや条件によって異なると考えられています。
2. 抗痙攣作用
CBCは、CBDやCBDA、THCAなどと共に、てんかん治療用のアーティザナルオイルに含まれている成分のひとつです。以下のような研究が報告されています:
・Dravet症候群モデル(Scn1a⁺/⁻マウス) CBCは、低体温誘導性の発作モデルにおいて、CBDと同程度の発作抑制効果を示しました。また、CBCの前駆体であるCBCAやCBCVAも効果がありましたが、CBCVには効果が認められませんでした(Anderson et al., 2021)。
・ゼブラフィッシュモデル ピクロトキシン誘発性発作に対して、CBCは1 μMの用量で発作を抑制し、CBD(2 μM)やカンナビノール(4 μM)よりも低用量で効果を示しました(Kollipara et al., 2023)。一方で、CBCはマウスの電気ショック誘発性発作モデルでは効果が認められませんでした(Davis and Hatoum, 1983)。
3. 鎮痛作用
痛みは医療用カンナビスの最も一般的な適応のひとつであり、CBCもまた以下のような研究でその可能性が示唆されています:
・中脳水道周囲灰白質(PAG)への投与 CBCをラットのPAG領域に注射すると、痛みの反応時間が有意に延長し、痛みの閾値が上昇しました(Maione et al., 2011)。
・マウス尾部フリックテスト 単独投与でも効果を示し、THCとの併用では相乗効果が確認されました。ただし、用量や条件により「相乗」と「加算」の違いが見られました(Davis and Hatoum, 1983;DeLong et al., 2010)。
またCBC(20 mg/kg)が尾部フリックテスト、ホルマリン誘発痛モデル、シスプラチン誘発性末梢神経障害モデルなどで一貫した鎮痛効果を示しました(Raup-Konsavage et al., 2023)。
・関与する受容体 鎮痛効果はCB1、TRPA1、アデノシンA1受容体(A1R)を介することが示唆されていますが、一部研究ではCB1受容体が関与しない可能性も報告されています。
4. 抗菌作用
CBCは、抗菌および抗真菌活性を持つことが報告されており、特にグラム陽性菌に対して顕著です
・抗菌活性 Bacillus subtilis や Staphylococcus aureus に対して、ストレプトマイシンと同程度の抗菌作用を持ち、さらに抗MRSA効果も報告されています(Eisohly et al., 1982;Appendino et al., 2008;Farha et al., 2020)。
・抗真菌活性 Candida属などに対しても活性があるものの、標準的抗真菌薬(アムホテリシンB)よりは劣るとされています。
・口腔細菌に対する効果 患者の歯垢から分離した細菌に対して、CBCは市販歯磨き粉よりも強い抗菌効果を示しました(Stahl and Vasudevan, 2020)。
5. その他の治療的可能性
・抗うつ作用 強制水泳試験では20 mg/kgのCBC投与により、うつ様行動が軽減されました(El-Alfy et al., 2010)。ただし、尾吊り試験では高用量でのみ効果が認められました。
・抗腫瘍作用 CBCは、メラノーマ細胞株に対してIC50 = 23.0 μMの細胞増殖抑制効果を示し、抗がん剤5-FUと同程度の効果を有すると報告されています(Gaweł-BeRben et al., 2023)。
参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38777605/
執筆者: 正高佑志(医師) 経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。 研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。 書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン) 所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員) 更新日:2025年4月17日
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